第64回日本糖尿病学会 ~注目のシンポジウム

次回の日本糖尿病学会で,私が注目しているシンポジウムです. なお 注目講演は 前回ご紹介しました.

シンポジウム8 これからの糖尿病食事療法における課題と展望

これをもっとも注目しています. 非常に興味深いのは,ほぼ同じ内容の公募企画『改定された食事療法ガイドラインの実践における課題』が行われるにもかかわらず,このシンポジウムも それとは別に行われるという点です. 公募企画で 全国から寄せられた『新しい食事療法の課題』について,シンポジウム出席者が 解決方向の考えを述べるというスタイルになると予想されます.

問題は,このシンポジウムにどなたが出席されるのかですね.まだ発表されていません.悲しいことですが,長年 学会に参加していると,登壇予定の演者の名前を見ただけで『あ,XX大の YY先生ね. なら こういうことを話すに決まっている』と分かってしまうことです.演者の顔ぶれによって,このシンポジウムへの期待レベルは いかようにでも上下しそうです.

ディベート2件

  • ディベート関連企画1 高度肥満症例[内科的治療 vs 外科的治療]
  • ディベート関連企画2 サルコペニアかつ腎症を合併した糖尿病:サルコペニアの治療を優先vs腎症の治療を優先

ここ10年の学会でのディベートと言えば,かなりの確率で 『糖質制限食 是か非か』でした. しかし,『食事療法の個別化』という路線を出した以上,もはや特定食事療法の是非はディベートのテーマになりえないということなのでしょう.ただそれにしても,今回のこのテーマは 狭すぎるように思います.

公募企画4 次に投与する薬剤は何か?~薬剤選択に迷う症例~

医師が選択に迷っているようでは困りますが,実際にはそういうケースがかなり多いのでしょうね.患者には決して言えないでしょうが.

シンポジウム5 2型糖尿病の遺伝素因はどこまで解明されたのか?

現に糖尿病になっている人のDNAを解析して,特徴的に共通しているゲノム・遺伝子配列が見つかれば,それを『糖尿病に関連している遺伝子』と呼びます.

関連する』とは,ちょっと 奥歯にものがはさまったような表現ですが,なぜそういうかといえば,それらの遺伝子を持っていれば 必ず糖尿病が発病するとは限らないからです. それらの遺伝子があっても,まったく正常な人は多いのです. 逆に それらの遺伝子をまったく持っていないのに,糖尿病になっている人もいます.つまり関係はありそうだが,決定的ではない,十分条件でもなければ必要条件でもない. だから『糖尿病に関連する遺伝子』というあいまいな言い方しかできないのです. 最近の文献情報をみる限り 遺伝素因解明にとんでもない発見があったとは思えませんから,どこまでの情報が出るのか不明です. ここで Ahlqvist説でも紹介されたら,うれしいSurpriseですが,まあ ないでしょう.

なお以上の話とはまったく別に,完全にメンデルの法則通りに 特定の遺伝子の存在だけで決まる,純粋に遺伝性の糖尿病もあります[ MODY = Maturity Onset Diabetes of the Young;若年発症成人型糖尿病].
しかしこれは本当にまれな病気であって,日本の全糖尿病患者の1〜3%程度と言われています.

その他の注目シンポ

  • シンポジウム11 メトホルミンと新薬の併用を活用した新しい糖尿病治療
  • シンポジウム24 腸管による代謝調節と糖尿病~インクレチンから腸内細菌叢まで
  • シンポジウム25 膵β細胞量の調節機構と発生
  • シンポジウム26 膵ホルモンの分泌シグナル-生理と病態

どれも基礎研究の紹介と思われます. 素人がこういう情報をまとめてアクセスできる機会はほとんどないので,貴重で効率的なソースです.
お粗末なテレビ番組とは比較にもなりません.


全般的な感想です

今回学会は,テーマの設定が どれも小ぶりだなという印象です. そもそも もっとも基本的なテーマである『日本人の糖尿病はなぜ発症するのか』『日本人の糖尿病合併症はどのようなメカニズムで発症し,進行するのか』など正面から議論するテーマが とりあげられていません.ここをふまえないと『糖尿病の予防』『合併症の防止』も議論できないと思うのですが.

Kahn博士を招請した手前;

糖尿病は肥満によるインスリン抵抗性が原因です.それ以外にはありえません.以上

でおしまい? まさかね.

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