食事療法の迷走[40] 熊本での学会[2]

2013年5月に 熊本市で開催された 第56回日本糖尿病学会年次学術集会では,『シンポジウム6』にて,『糖質制限食は危険だというエビデンスがある』という主張が大勢を占めました.

そして この学会では,もう一つ討論会が行われています.

Diabetes Controversy 論争

第56回日本糖尿病学会 Diabetes Controversy2

糖質制限食と,学会の推奨する『カロリー制限食』のどちらが,糖尿病患者の食事療法としてふさわしいのか,というディベート形式の討論会です.

食事療法においては,

炭水化物比率は絶対に50%以上でなければならない

との立場で 京都府立医大の福井道明先生が,それに対して

カロリー制限食を唯一の食事療法とせず,糖質制限食も認めるべきだ

という立場で 北里大学 山田悟先生が,それぞの主張を展開しました.

余談ですが,このお二人は この後 学会で何度も顔合わせすることになります.食事療法の早慶戦として,学会の目玉イベントとなりました.

炭水化物は50%以上が必須

まず最初に登壇された,京都府立医大の福井先生は,『カロリー制限食賛成』サイドの主張です.
ただ持ち時間の前半は,この年に発行されることになった食品交換表の第7版に費やしました.

  • 今回の改訂第7版では,炭水化物の比率を一律に60%とするのではなく,55%,50%のケースも取り上げ柔軟性を持たせた.
  • しかしこのように糖質の割合を下げると,ケースによっては,体重1kgあたり1.2gの蛋白質摂取推奨量を上回ることになってしまうから注意が必要

とのことです.

講演の後半では,『糖質制限食の危険性』を懸念する根拠となる論文を多数列挙されました.

ただ食事療法を比較した文献では,基本的には自己申告なので,その正確性には疑問が残ります. 例えば(2)のDansinger論文では,どの食事療法でも結果(体重減量など)に大きな差がつかなったのですが,それもそのはずで,

ここで比較しようとした4種類の食事療法[★]は,どれも12ヶ月後には遵守レベル=3程度になってしまっています(完全遵守=10,完全非遵守=1として).つまりほとんどの人は 指定された食事療法を最後まで貫徹できなかったのです.しかも『遵守した』という人でも,それは自己申告に過ぎませんから,以前の学会で 東大の 佐々木敏先生が指摘したように,いくら最初にメリハリをつけた栄養素構成の食事を指示しても,ほとんどの人は最終的に似たような食事に収れんしてしまうということでしょう.

  • [★]4種類の食事療法:
    • Atkins Diet : 20g/日以下の糖質から始めて,最後は50g/日
    • Zone Diet : P/F/C比率 = 40/30/40に固定
    • Weight Watchers Diet : Weight Watchers社の指定する食材ごとにポイント指定された食事療法
    • Ornish Diet : Ornish博士の提唱する 超低脂肪(<10%)高糖質食

なお,従来と比べて目新しかったのは,この時点から福井先生は,『低炭水化物食は動物性蛋白・脂質が多いと,総死亡率を高めるが,植物性蛋白・脂質の多い低炭水化物食は,逆に総死亡率が低下する』 に言及されるようになりました.以後の学会ですべてそうです.

糖質制限法食は有効である

対して,『副次的食事療法として糖質制限法食は有効である』のタイトルで,次に登場した北里研究所病院糖尿病センター長の山田先生は,文献ではなく『健康日本21推進フォーラム』のアンケート結果を紹介されました.

糖尿病患者が医師から指示されたことを,実際にどれくらい順守しているかアンケート結果をまとめたものです.

『健康日本21推進フォーラム調査』より

医師から服用を指示された薬を,実際に患者がきちんと服用している率は79%でしたが,『禁酒・禁煙の指示』の順守率はそれぞれ50%,46%と低下して,

『食事療法』に至っては,『医師の指示を守っている』と答えた人は 35%にすぎないのです

『糖尿病の食事療法は,炭水化物60%のカロリー制限食が理想だ』と言っても,6割以上の人がそれを守れない,つまり 実際には実行されていないというのが現実ならば,『理想的な方法』にどんな意味があるのかという指摘です.

その後,山田先生は,福井先生が列挙した文献を次々と反駁しておられました. たとえば『糖質摂取比率は50%を切らないとHbA1c低下に明確な効果がみられない』(=つまり,60%糖質を,55%や50%糖質に妥協しても,あまり意味はない)とか,『DIRECT試験(=前記 (3)の文献)で,糖質制限食で短期的には体重減少しても,その後の追跡結果を見ると元に戻りつつある』という福井先生の主張に対して,『更にその後の追跡結果を見ると,6年経ってもやはり糖質制限食は有効性を維持している』でした.

最後に

医者は糖尿病を見るのではなく患者を見て,その人に応じた治療をすべきである. 厳格なカロリー制限食を守れる人はいい,それが守れない人の次の選択として糖質制限食を認めるべきだ

と締めくくられました.

[41]に続く

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