食事療法の迷走[16]マクガバン・レポートは日本食を絶賛した?(3)

前回は,マクガバン・レポートの第1版・第2版 報告書で,日本という単語(“Japan” 又は “Japanese“)が登場する箇所を検索してみました.今回は,その第2版報告書に参考として添付された『補足文書一覧』(Supplemental Views)でも同様に調べてみます.

マクガバン・レポート
補足文書一覧

表紙・目次を除いて 本文は全869頁です.
その内容は,マクガバン議員の求めに応じて,第1版に対して科学者・医師から寄せられた医学的観点からの意見(Medical Opinion)がほとんどを占めています.

『日本』が登場する箇所は以下の通りでした.

詳細は 原文で上記の各頁をあたっていただければわかりますが,『日本食』という言葉はほとんど出てきません.また引用事項の大半は,『日本人は脂質の摂取,特に飽和脂肪の摂取が少ない』『これが日本人の冠動脈疾患(Coronary Heart Disease=CHD)の少なさと関係しているのだろう』です.
つまり,『日本人の食事は理想的だから米国も見習おう』などとはどこにも書いてありません.

それどころか,当時の米国人が日本をどう見ていたかは,下記の2箇所をみると推察できます.

米国からみた当時の日本

上の表のNo.13(p.312)では,原文にこう書かれています.

日本人の食事は低脂肪であることが知られており,しかもその脂肪の大部分は植物油に由来する.しかし,No.10(= p.305)の通り,日本人の胃癌発症率は米国よりはるかに高い.これについては 興味深い仮説がStukonisとDoll(1969)から出されている. 彼らによれば,英国の胃癌発症率と社会的階層の間には明確な相関関係が確認されている.
[中略]
著者らは,英国では 社会階層間で食生活が違うことが決定づけているかもしれないと結論している. 発がん物質は高価な食品よりも安価な食品に高い濃度で存在しているだろう.しかし,社会階層が低く,肉体労働で消費カロリーが大きいと,より多くの食物を消費する必要があり,その結果(安価な食物中の)発がん物質が多くなり,胃癌の発生リスクが高くなるのだろう

マクガバン・レポート
補足文書一覧
p.312

この推測自体は間違えている(当時の日本人に胃癌が多かったのは塩分過剰の可能性が高い)とは思います. しかし,当時の欧米白人社会が日本社会をどう見ていたかがよくわかる表現です.

さらに,上の表のNo.18(p.758)では,原文にこのようなことも書かれています.

糖尿病が アテローム性動脈硬化症を発症するリスを高めるという明確な証拠はない. 現在 西欧では糖尿病患者に推奨される食事療法は,炭水化物の削減と,及び脂質を乳製品由来のもので代替することが一般的に行われている.たしかに,経済的および文化的理由によって炭水化物食をより多く摂取する国の糖尿病患者(日本人など)は,心疾患を起こしにくいが,安易な推論は慎まねばならない.

マクガバン・レポート
補足文書一覧
p.758

あからさまな表現は避けていますが,つまりは『日本人は貧乏な後進国なので,食い物と言えば米だけ.すると必然的に低脂質の食事になって心疾患が少ないのだろう』と書いてあるのです.つまり当時の米国から見れば,日本は貧乏で粗末な食事しかできない国だったのです.

No.13の文章で,わざわざ階層社会である当時の(今も)英国の例を挙げたのは,日本全体がそのように思われていたことの証左でしょう.

(C) FineGraphics さん

【食事中の脂質が少ないと(米国人がもっとも恐れる)心疾患を減らせるのではないか,その点に限っては注目に値する】ので,このレポートに登場させたのです. 決して『日本食=和食はすばらしいから,我々米国人も見習おう』ではなかったのです.

[17]に続く

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