5月に予定されていた国家公務員試験は延期になりましたが,管理栄養士国家試験の方は予定通り3月1日に行われました.
その問題と解答はこちらで公開されています.
これが公開されると,私も毎回『模擬受験』しています.
というのも,この試験の出題傾向で厚労省の「意向」がある程度判断できるからです.特に毎回 午後の問題の「臨床栄養学」で第125問付近は,糖尿病の食事療法に関する出題とするのがここ数年の通例です. 厚労省が糖尿病の食事療法はどうあるべきと考えているのか,この問題からうかがえます.
過去の問題は
昨年及び一昨年には,糖尿病の食事療法について,こう出題されていました.
いずれも『糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版』 (以下『食品交換表』)の内容を問うものであって,当然 回答は食品交換表の記載に沿ったものが正解とされています. つまり,食品交換表が『唯一の正解』であり,それ以外は間違いであるとしているわけです.
もしも国家試験を受験する学生の中に『高糖質の食事は,食後血糖値を上げるから糖尿病には良くないのでは?』と考える人がいたとしても,試験に合格するためには,自らの考えに反していても,食品交換表に従った回答を選ぶしかありません.
今年の問題
そこで,今年の問題です. 全200問中,「糖尿病」という単語があったのは5問あったのですが,今年は 糖尿病の食事療法に関する問題が2問出されています.
第120問では,たしかに【(1)糖尿病食事療法のための食品交換表を用いて,栄養食事指導を行う】は「誤りではない」すなわち正しいとしているのですが,それは回答選択肢の中に【(4) α-グルコシダーゼ阻害薬は,肝臓での糖新生を抑制する】というとんでもない「誤り」があるからそうなるにすぎません.
また『食品交換表を用いる』ことは正しいとしても,食品交換表の中のどの部分を『用いる』かは示していません.
過去の問題では,食品交換表に記載されているカロリー設定・栄養素配分を必ず出題していたのに,今年はそれをスルーしたのです.過去の傾向通りであるとするなら,選択肢(1)は
糖尿病食事療法のための食品交換表を用いて,カロリー設定・栄養素配分を決定する
としていたはずです.
第128問では,たしかにカロリー設定と栄養素配分を聞いていますが,これはeGFRが60を下回っている明らかな糖尿病腎症の場合であって,通常の2型糖尿病患者のことではありません.
つまり今年の国家試験では,日本の糖尿病患者の大多数を占める2型糖尿病患者の食事療法において,
従来必ず出題されていた『適切で唯一正しい カロリー設定・栄養素配分』は問われなくなったのです.
方針が定まっていない
これはやはり,昨年秋に日本糖尿病学会が公開した『糖尿病診療ガイドライン2019』 で打ち出された『糖尿病の食事療法は,一律・機械的にすべて同じではなく,患者人一人に個別化するべきである』という考えが反映されたものだと思います. 患者ごとに最適な食事療法が異なるのであれば,従来のように体重だけをみて,頭ごなしに『カロリーは XXX,炭水化物は 何%』と決めつけてしまうのはありえないからです.
しかしながらこの記事でもふれたように,一律ではなく「個別化」だとすれば,それを具体的にどのようにして行うのかまでは示していません(『これから考える』というのが学会の立場). したがって,今回の管理栄養士国家試験の出題は こうせざるをえなかったのでしょうね.
ただ,全国の病院で 日々 糖尿病患者に食事栄養指導を行っている現役の管理栄養士は困っているのではないでしょうか. まさか『新しい方針は只今検討中ですから,しばらく食事は摂らないでください』とも言えませんしね.
コメント
今年の第128問で私は(2)か(3)かを迷って(2)と答えてしまいましたが、なぜ(3)なのでしょう。
カロリーは基礎代謝を上回り、腎症なのでタンパク質は少なくと考えたのですが、タンパク質が少な過ぎたようです。
因みに他3問は迷うことなく正解でしたw
第128問は,糖尿病腎症ガイドラインが改訂されたことを理解しているかを問う問題ですね.
新ガイドラインでは eGFRが30-60であれば,蛋白質は 0.8-1.0/kg/日 と以前のガイドラインより緩和されています. 腎症だからといって,無条件に蛋白質を極限まで減らしていいものではないという反省からでしょう.
また1日のカロリーは 体重60kgであれば 1,800kcalですが,BMI=23.1とややオーバーなので,少しカロリーを控えるということでしょう.