腸には メトホルミン[5]

「メトホルミンの効果は肝臓で糖新生を抑制する」これが主作用と思われていました. 更に筋肉などの糖取り込みを促進する副次的効果もあるとされてきました.
実際 メトホルミン(メトグルコ)の最新版の添付文書でも,

大日本住友製薬

メトホルミンの作用機序はこう記されているだけです.

主に肝臓における糖新生を抑制し、膵β細胞のインスリン分泌を介することなく血糖降下作用を示す。また、末梢組織における糖取り込みの促進、小腸における糖吸収の抑制等も知られている,

『腸管に長時間とどまって糖をごっそりと取り込みます』などとは一言も書いてありません.むしろ「小腸における糖吸収の抑制」(*) と 書いているだけです.

(*) 小腸【上部】での糖取り込み吸収抑制効果は実際に存在するようです. ただし,小腸下部や大腸のことではありません.

本務はどれなのか

しらねのぞるばは便利屋に見えるらしく,現役勤務時代には,なんだかんだとてんこ盛りに兼務をつけられて(給料は変わらないのに),最後にはいったい自分の本務は何だろうかというくらいわけがわからなくなりました.

(C) kotokoto さん

メトホルミンは,いったいどれが本務なのでしょうか? この疑問を解消すべく,この臨床実験が行われました.

Diabetes Care 2016;39;198-205

タイトルはズバリ『メトホルミンの本務勤務場所は腸である』と出ました.「反論があるなら言ってみろ,こちらには大御所 DeFronzo教授がついているんだぞ」という雰囲気です.

三種のメトホルミン

この報告では,三種類のメトホルミンが使われています.

  • 速効性メトホルミン(Met-IR; IR = Immediate-Release)
  • 徐放性メトホルミン(Met-XR; XR = eXtended-Release)
  • 遅放性メトホルミン(Met-DR; DR = Delayed-Release)

最初の速効性メトホルミン(Met-IR)は,いわゆる普通のメトホルミン錠です. コーティングされていない成型錠剤で,世界中でこれが使われています.

二番目の徐放性メトホルミン(Met-XR)は,日本では販売されていませんが,海外ではよく使われています.

Actavis

インスリンを使っている人なら,徐放性はよくご存じでしょう.この徐放性メトホルミンも全く同じ意味です.

普通の(速効性の)メトホルミンは,服用後2時間くらいで血中濃度が最大になり,その後徐々に(排泄されて)低下していきますが,この徐放性メトホルミンは 1日中なるべく同じ濃度になるように,粘稠剤を混ぜて成型された錠剤が少しずつ溶けていくようにしたものです.上記添付文書には血中濃度は8時間[中央値]ほどでピークに達するとしています.従来のメトホルミンに比べて,一日中ほぼ一定の濃度を保てるというわけです.

最後の遅放性メトホルミン(Met-XR)は,この試験のためだけに特に試作されたものです.メトホルミンの吸収は大部分が十二指腸から小腸上部で行われるため,メトホルミン錠剤を特殊なコーティングで包んで,胃から十二指腸・小腸上部ではなるべく溶けずに,小腸下部まで来て初めてそこで溶解するようにしたものです. これらすべてのメトホルミン錠剤3種を溶解場所別に示すとこうなります.

最後の遅放性メトホルミン(Met-XR)だけは,なるべく門脈に行かないように,つまり肝臓には届かないように工夫したものです.

メトホルミンの主作用部位が肝臓であるなら,この薬には血糖降下作用はほとんどみられないはずです.

この実験は2段階で行っています. 最初の実験は,これら3種類のメトホルミンそれぞれが,どれくらい血中に吸収されるか,言い換えれば 血液中に一番吸収されにくいのはどれかを調べています.

[6]に続く

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