腸には メトホルミン[6]

前回記事では,Fineman論文では,それぞれ 溶解場所が異なる3種類のメトホルミンを用意したところまでご紹介しました.

略称溶解場所溶解時間
速効性メトホルミン(市販品)IR消化管上部即時
徐放性メトホルミン (市販品) XR消化管上部徐放
遅放性メトホルミン(試作品)DR消化管下部即時(★)

(★) ただし 服用後 消化管下部に到達するには数時間~10時間かかります.

それぞれの服用後血中濃度

これら3種のメトホルミンが,本当に血中移行率に差があるかどうかを調べるために,健康な20名のボランティアを募って,下記要領でこれらのメトホルミンを服用してもらいました.速効性のメトホルミンは 1日に1,000mg錠×2 ですが,徐放性性メトホルミンは血中濃度が変動しにくいと予想して 2,000mgを1日1錠としています.

また 遅放性メトホルミンだけは, 1日に1,000mg錠×2の場合と,その半分の用量である, 1日に500mg錠×2の場合も調べています.

上記の通り 20人の被験者全員に,すべてのメトホルミンを服用してもらいました. 種類の違う薬が相互に影響しないように,1つのメトホルミンを服用したら,次のメトホルミンを服用するまでには 休薬(Wash Out)期間をおいています.

各薬を服用後,36時間にわたって全員の血中メトホルミン濃度を測定した結果が下の通りです.

遅放性メトホルミン500mg×2/日のグラフは省略しています. したがって ここに掲げているのは,すべて1日に合計2,000mgのメトホルミンを服用した結果です.

速効性メトホルミン(IR)は,服用してからほぼ2~4時間にかけて,血中濃度が高くなっています.
徐放性メトホルミン(XR)は,服用後8時間がピークですが,これを見るとピーク時の濃度は 速効性メトホルミン(IR)よりも高いので,むしろIRを分割服用した方が濃度の上下は少なそうです.

これらに対して,この試験のために特に試作された遅放性メトホルミン(DR)は,他の2種と同じく 総量 2,000mg/日を服用したにもかかわらず,その血中濃度はもっとも低くなっています.このメトホルミンは,血中には,したがって肝臓にはあまり送られていないと言えます.

これらのグラフの曲線下面積を比較すると;

遅放性メトホルミン(DR)の血中存在量は,速効性メトホルミン(IR)及び徐放性メトホルミン(XR)のどちらと比べても,半分以下となっています.さすがにゼロにはなりませんでしたが(DRはEntericコーティングなので,胃では全く溶けないが,小腸に入ったあたりから少しづつ溶け始めるので),それでも十分な差が確認されました. つまり 遅放性メトホルミン(DR) は他の2種に比べて肝臓に届く量は半分以下なのです.

[7]に続く

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