最後にここまでの研究で 糖尿病発症リスクとの有意な相関性がみられなかったASTについて考えてみます.
たしかに ASTは,心臓・骨格筋・赤血球など,つまり新陳代謝の盛んな細胞に多く見られるので,肝臓機能指標としては特異的ではありません.
一般に,健康に問題のない人では AST>ALT が正常とされています.(ただし,アルコール性肝炎の場合は,AST>>ALTとなります. これは肝臓組織が破壊されて ALTの存在自体が少なくなってしまうからです)
この文献を見ると
肝機能指標とインスリン抵抗性(HOMA-IRで評価)との関係を調べたものです. BMI=25を境として 結果が多少異なっていましたが,どちらも ALT/AST比がインスリン抵抗性(HOMA-IR)とよく相関していたという報告です.
これは 私自身のデータでもたしかにそうで,過去の糖尿病発症までの推移,そして その後糖質制限食を実行してからの血糖コントロールの推移と ALT/AST比はきれいに一致していました.【注】この記事では ALT/AST比ではなく,その逆の AST/ALT比で表示しています.
何を反映しているのか
なぜ,ALT単独ではなく,ASTとの比率がインスリン抵抗性と相関するのか,その理由・メカニズムについては,この論文では不明としています.
ただし 古い文献ですが,そのヒントとなる報告があります.
肥満外科手術の患者(=高度肥満治療のため,胃の一部を切除する手術)という特殊な例です.そういう状況なので,患者の全例で,画像診断ではなく,実際に肝細胞の生検により観測した脂肪肝の程度が記録されています.そして脂肪肝の程度と,ALT,AST 及び ALT/AST比との相関を調べたところ,ALTやASTはそれ単独では 脂肪肝の程度と相関が低かったのに,ALT/AST比だけはよく相関したという報告です.
つまり,ALT/AST比は,CT撮影やエコー検査よりもお手軽に脂肪肝の程度を(したがってインスリン抵抗性の程度を)かなり鋭敏に反映する数値のようです.
血糖値は日々の変動が激しいですし,HbA1cは逆にタイムスパンが長すぎて 最近の食行動・運動行動との対応関係がつかみにくいものです. ところが肝臓指標は 適度に反応が速く しかもかなり鋭敏ですので,血糖値指標と併せて判断すれば,役立つツールになると思います.
【続】肝機能指標と糖尿病【完】
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