『2型糖尿病』は存在しない[13]合併症は予測できる

スウェーデンのAhlqvist博士の提案した『2型糖尿病は4つの異なる病気に分類できる』という主張に対して,大別して2つの異議・異論が出されました.

異論1は

英国のDennis教授をはじめとする臨床医学専門家は,2型糖尿病の症状は多彩であり,ひとりひとり異なった病態を呈するのだから,4種の分類で単純化するのではなく,発症年齢や,BMI,HbA1cの推移をみて,適宜対症療法していくのがベストだと主張しました.

しかし,それに対して Ahlqvist博士は,Dennis博士の論拠は,臨床試験の『きれいな統計的結論を出すために選び抜かれた均一な患者集団』のデータであり,そこでは重症患者が最初から排除されている,それではもっとも重要な『糖尿病患者が重度の合併症に進行するのを予想して最適の治療戦略をたてること』ができないと反論しました. 実際 Ahlqvist博士の分類で,糖尿病腎症リスクの高いSIRD(=重度インスリン抵抗性糖尿病)に分類される患者は,Dennis博士自身のデータを見ても,最初からインスリン抵抗性治療薬で投薬したグループが効果的だったのです.
Dennis博士はこの反論を認めざるをえませんでした(それでも,従来の対症治療も重要だと述べていますが).

異論2は

世界の糖尿病臨床医から出されたもう一つの異論は,『Ahlqvist博士の言う【4種の2型糖尿病】は,実は糖尿病の進行の各段階を見ているにすぎず,時間がたてば ある分類の患者が別の分類に移っていくのではないか』というものでした.
しかし,これもドイツのZaharia博士の研究により否定されました.糖尿病の初期段階で あるタイプに分類された患者の多くは,5年経過してもやはりそのタイプだったからです.

最重要ポイント

ところで ドイツのZaharia博士の論文は,もう一つ重要な事実を明らかにしていました. Ahlqvist博士は,ただ単に2型糖尿病を統計的にグループ分けすることに意義を見出したのではなく(日本ではそう誤解している専門家もいますが),

グループによっては,重篤な合併症に至るリスクが大きいのだから,そうならないよう グループごとに早期に適切な治療を行うことが重要だ

これがAhlqvist博士のもっとも強調したい主張だったのです.

合併症懸念が裏付けられた

上記のZaharia博士は,ドイツの登録型 糖尿病 観察研究 The German Diabetes Study (GDS)のデータを用いて,Ahlqvist博士の分類が正しいことを裏付けたのですが;

それだけでなく,Ahlqvist博士の『グループごとに合併症のリスクがまるで違う』ことも証明したのです.実はこの方がはるかに重大な意味を持っています.

GDSとは,ドイツの複数の医療機関の長期共同研究で,新規に糖尿病と診断された登録された患者を対象に,登録時点 および5年ごとに20年後まで詳細な検査を行って,病状や合併症の発生を追跡する観察研究です. もちろん観察だけでなく,すべての登録患者は それぞれの受診医療機関でベストと思われる治療が継続されます.
そこでこの結果をご覧ください.

これは衝撃的です,ドイツの高度な医療機関で治療を受けていたにもかかわらず,Ahlqvist分類で SIRD(=重度インスリン抵抗性糖尿病)に属するグループは,他のグループに比べて 糖尿病腎症の進行がはるかに速かったのです.

このデータは

Ahlqvist分類により,糖尿病の初期段階で合併症を予言できる

ことを実証しています.

スウェーデンでもドイツでも,『4種類の2型糖尿病』は違う病気であり,合併症リスクも証明されました.
では,この4種のパターンが存在する原因は何なのでしょうか?

[14]に続く

コメント

  1. apple より:

    おはようございます
    appleと申します

    テーマとは異なる質問で申し訳ございません

    ぞるばさんはセンサーの調達は順調ですか?

    私は3月にeBayでインドからaccu check performaのセンサーを購入したのですが、ロックダウンで届かず。
    先方は解除されたら真っ先に送ってくれると約束してくれたのですが
    未だ届かず。

    今は届くまでのつなぎとして以前使用していたone callを使っています。
    先月までは問題なかったのですが
    11月に入り室温の低下によって測定値が異常に低く出るようになりました。空腹時で50から60とかありえない数値です。

    11月に使うのは初めてで対応策に苦労しています。

    accu check performaなら就寝時体温で一晩温めれば大丈夫だったのですが
    one callはそれも駄目で。体温での保温が熱すぎるのかもしれません。

    ぞるばさんはどちらのメーカーのセンサーをお使いでしょうか?

    またその調達は順調ですか?

    インドからebayで購入するのはもう大丈夫でしょうかね?

    • しらねのぞるば より:

      私が現在使っているのは FreeStyle Optium Neoです.

      https://www.freestyle.abbott/in-en/products/freestyle-optium-neo.html

      センサーが個別密封包装なので,湿気による劣化の懸念がありません.
      センサーにはグルコース検出のための酸化剤や酵素が含まれるので,使用期限がありますし,しかも開封状態では その寿命も短くなるようです.
      センサーの性能が落ちると 過大値/過少値 どちらもあり得るようです.

      https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/53/1/53_1_42/_pdf

      本来 電極方式のSMBGは,比色方式のメディセーフと比べて低温には強いので,やはりセンサーの劣化ではないでしょうか.

      私の場合は 最近測定頻度が下がっていることもあり,センサーはむしろ余り気味です.
      なので,私は期限の迫ったセンサーは,別館の記事のように

      https://ameblo.jp/shiranenozorba/entry-12632663253.html

      大量消費して 使い切ってしまうようにしています.

  2. apple より:

    appleです
    早々にご回答ありがとうございます

    こちらの機種のセンサーはやはりebayで購入されているのですか?
    ちゃんと届きますか?

    異常値は湿気による可能性が高いとのこと
    50枚入りを1ヶ月で使い切るようにしています
    使用期限もまだ11か月あります。
    今日は集中計測日なので
    新しいケースを開けて測定してみますね

    • しらねのぞるば より:

      いえ.私は代行業者による個人輸入です.
      たしかに eBayほどには安くなりませんが,ただ納品遅延やキャンセルはないので,計画的に入手できますので.

      なお,異常値が出た時に備えて,較正用の標準液も用意しておくことをお勧めします.
      センサーがおかしいのか本体の故障なのかという切り分けもできますから.

  3. apple より:

    おはようございます
    ご丁寧にありがとうございます

    標準液ですか?

    探してみますね

    • しらねのぞるば より:

      > 標準液

      私は『ニプロフリースタイル専用 ニプログルコースコントロール液』というものを使っております.Amazonなどから購入可能です.
      ただこのコントロール液の使用期限はセンサーよりも短いので,なかなか使いにくいものではあります.

      自分でも作れるのですが(水1リットルに1gのブドウ糖で 100mg/dlですから),水道水では塩素イオンが測定妨害するおそれがあるので,蒸留水を使わないといけません.しかも作っても使うのは1滴だけw

      最近はセンサーを買えば,本体が「オマケ」でついてきますから,複数の本体で測って変な値が出るならセンサー不良と判定する方法がむしろ簡便かもしれません.

      • tomo0371spitz@gmail.com より:

        おはようございます
        なるほど !!といろいろ勉強になります
        重ね重ねありがとうございます

        • しらねのぞるば より:

          ブログ閲覧ありがとうございます.
          もともと 文献などの学術情報を読んだらメモしていたものですが,整理が悪くて 同じ文献を何度も読んでしまうことも多かったことから,ブログとして残すことにしました.
          医学情報の客観的抄読と,妄想爆発の『暴論』とは 区別しつつ,今後も続けていきたいと思います.