『2型糖尿病』は存在しない[14] 重大性が認識されてきた

ドイツのZaharia博士らが, Ahlqvist博士の提案する糖尿病の新分類を検証したところ;

  • 糖尿病と診断された時点,およびそれから5年後に,それぞれ分類したところ,大半の患者は最初の分類のままであった.
  • Ahlqvist分類で SIRD(=重度インスリン抵抗性糖尿病)グループに属する患者は,他のグループの患者よりも 糖尿病腎症の進行速度が格段に速かった

ことが明らかになりました.

従来の考えでは

従来の考えはこうでした.

  • 2型糖尿病型とは,1型でもない,遺伝性でもない,妊娠糖尿病でもない,薬物性でもない,『その他の糖尿病』ですらない分類不能の糖尿病を2型と呼ぶ
  • 2型糖尿病は一つの病気なのだが,ただ その病態は個人ごとにバラバラで多種多様である
  • 2型糖尿病は分類不能なのだが,糖尿病全体の90%以上を占める

しかし,この解釈では,これほど明確なパターンの差がでるわけがありません.

何が支配しているのか

ではAhlqvist博士の提案した,これらの5種類の糖尿病の発症は,何によって支配されているのでしょうか?

The Lancet Vol.6(5) p361-369, 2018

学会では『1型糖尿病は,遺伝的素質もあるが,ウイルス感染などが引き金になって膵臓β細胞の機能を完全に喪失したもの. それに対して2型糖尿病は悪しき生活習慣によって惹起された症例が殆どである』などと述べている人もいます.

上記のSAID,つまり従来の[1型糖尿病+SPIDD★]は例外として,その他の4種の糖尿病は,果たして本当に『悪しき生活習慣の違い』だけでこうなるのでしょうか.

★SPIDD=Slowly Progressive Insulin-Dependent Diabetes mellitus:緩徐進行型1型糖尿病は 日本だけの用語で,世界では LADA=Latent Autoimmune Diabetes in Adults:成人潜在性自己免疫型糖尿病と呼ぶのが一般的です.

Ahlqvist博士は,上記の2018年発表の論文では,『これら5種の糖尿病の発症は遺伝的素因が大きいのだろう』と述べており,実際に同論文の中で それぞれの遺伝子解析も試みています. しかし,残念ながら当時はまだデータが不足していました. 博士が分析に用いたスウェーデンの地域データベース(ANDISなど)には,登録された患者のDNA解析結果が少なかったからです.

遺伝解析を行ってみたところ

そのAhlqvist博士が,最近(本年9月) 念願の遺伝子解析結果を終えて論文発表しました.

まだ査読を経ていないPreprint(発表前原稿)ですが,おそらくほぼこのままで掲載されるでしょう.
博士の提案した新分類の各グループには,遺伝子がどのように関与しているのか詳細に検討した結果が報告されています.

新分類の重大性が認められつつある

ところでこの論文の内容に触れる前に,Ahlqvist説が 今後の世界の糖尿病医療すべてに 大きく影響するであろうと感じました. その理由は;

著者陣が国際的になってきた

2018年の最初の論文の著者は,Ahlqvist博士をはじめとして全員がスウェーデン,フィンランドの研究者でした. しかし,今年9月のこの論文原稿の著者を見ると,両国に加えて,英国・米国の学者も参加する国際的研究になってきました.

製薬会社も関心を

最初の2018年の論文,及び 今年の論文で,この研究には世界の名だたる製薬大企業(ファイザー,ノバルティス,リリー、ノボ・ノルディスク)が資金支援しています. 糖尿病の新たな分類とその発症機構とが解明されれば,糖尿病薬に革新をもたらす可能性があるからでしょう.

[15]に続く

コメント