高血糖昏睡

急性の合併症もあります

糖尿病がおそろしいのは 合併症が起こるからです.
合併症としては,神経障害・網膜症・腎障害などがよく知られていますね. しかし,これらは慢性の合併症です.
もっと恐ろしいのは 急性の合併症です. それらには ケトアシドーシスと高血糖昏睡とがあり,かなりの高確率で死に至ります.

HHS

HHSって,あの旅行会社の? ← それは HIS です.

(C) HIS


HHSとは 糖尿病性昏睡の一種で,高浸透圧高血糖症候群 (= Hyperosmolar Hyperglycemic Syndrome;以下 HHS)のことです.

以前は高浸透圧非ケト性昏睡とも呼ばれていました.とんでもない高血糖状態となり,意識は混濁,時に死に至る恐ろしい症状です. 典型的なのは,いわゆるペットボトル症候群で 若い人によくみられます. しかし必ずしもそういう場合だけでなく,長年高血糖を放置していた人で 何かが引き金となって発生することもあります.

HHSとは,急激な高血糖になる点ではケトアシドーシスと似ていますが,ケトアシドーシスのような急性のケトン体濃度上昇はみられません. 極端で急激な高血糖状態に伴う体液の浸透圧上昇が特徴です. 下図のように;

何かがトリガー(引き金)となって,急に血糖値が上昇すると,人体は この高血糖状態を解消するため 体内から水分を絞り出して血糖を排出しようとします. つまり 尋常ではないほどの頻尿となります.

しかし,頻尿であまりにも急激に水分を失ったため,更に血糖値は上昇します. そうすると ますます頻尿となり...という悪循環で,脱水と血糖値上昇が急速に進行します. この時血糖値は 2,000mg/dl(!)という とんでもない高値になることは珍しくありません.

また猛烈な頻尿による極端な脱水状態のため,体内の水分のミネラル濃度は濃くなります. 具体的には 通常 135-145mEq/lの範囲に厳密に制御されている血中ナトリウム濃度が,160mEq/l近くにまで上昇し(=高浸透圧),こうなると脳細胞はじめ神経細胞が正常に働かなくなり,まっすぐには歩けないほどのめまい,嘔吐,意識障害,すなわち 高浸透圧高血糖性昏睡を引き起こして,最悪 死に至ります(死亡率は 数%~10%).

ところで,上の図で HHSのトリガーになるのは,若い人の場合は 高糖質の清涼飲料水の飲みすぎ,いわゆるペットボトル症候群です. この場合は 若くて体力もあるので,直ちに適切に治療すれば予後は良好です. つまりケロリと治ります.

しかし,高齢者のHHSの場合は 圧倒的に多いトリガーは感染症です. 細菌による感染,特に 最近ではコロナ感染で HHSに至る人が続出しました.

Singh 2021

HHSの発症リスクは 第一に血糖コントロール不良です. さらに一度 HHSを起こした人が HHSを再発すると,その死亡率は飛躍的に高くなることも報告されています.

HHS の発症は現代の日本では珍しいですが,最近 典型的なHHSを発症したと思われる人のブログを読みました.その後も高血糖を放置したままであれば 非常に危うい状態だと思います.

なお,以前は ケトアシドーシスと HHSとは 両極端の別の事象と考えられていましたが,現在では両者の関係はアナログであり,ケトアシドーシスとHHSとが混在して発生することもあるようです.

糖尿病 Vol.51 341

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