肥満パラドックス [2] 否定論もありますが

肥満の人の方が,正常体重の人よりもむしろ死亡率が低い(ただし高齢者の場合)

これが【肥満パラドックス】です.

肥満は健康長寿の大敵です. 絶対に肥満は避けましょう.そのためには 仙人のような低カロリー・低脂質でバランスのよい食事が第一です.

今まで こう言い続けてきた人が聞いたら頭に血が上るでしょうね.

(C) 矢島商会 さん

ですから「肥満パラドックス」という言葉が発表された時,『そんな アホな』という反対論は 当然沸き起こりました.

その一例がこの文献です.

Dixon 2014

高齢者では肥満の人の方が死亡率が低かったという事実自体は否定していないのですが,健康維持にとって最適なBMIというものは,すべての人でまったく同じ値になるはずがないのだから,個人単位で見ればAさんの最適BMIは,Bさんにとってはそうではない.

ただ多くの人の平均を取れば,中年以下では BMI=22~25がボトムとなり,高齢者ではそれがやや高い BMI=25~30にずれるのだろうとしています.

それはそうでしょうが,ただこれだけでは なぜ高齢者の最適BMIが高い方にズレるのかを説明していません.

またこういう意見もありました.

Masters 2023

Population Studiesというインパクトファクターのあまり高くない(1.7~2.0)専門誌の論文です.人口動態研究の専門誌だそうです.

「各年齢世代における 現時点のBMIと その全死亡率をプロットしても意味はない. なぜなら,その人たちの過去のBMIの推移を調べていないからだ」と指摘しています. つまり 高齢者と中年以下の世代では,同じBMIでも 均質性が異なると主張しています. どういうことかと言えば,例えばBMI=30の高齢者集団がいるとして,この人たちにの中には,

  • [A] 昔から BMI=30のままの人,
  • [B] 過去には痩せていたが現在 BMI=30の人,そして
  • [C] 過去にはもっと太っていたが減量してBMI=30に落ち着いた人

の3パターンがあるわけです.もちろん中年以下にもこのパターンはあるわけですが,高齢でなければ 過去の『負の遺産』の効果は相対的に小さいでしょう.著者はこれらのパターンの存在から,やはり『BMIが高くなるほど死亡リスクは高くなる』のであり,肥満パラドックスというものは存在していないのだと主張しています.

ただし,この報告の元データは 米国の National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES)であり,米国人のライフスタイル・食生活をしている 45-85歳の米国人ではそうであった,というだけです.世界中の人間がすべて米国型食生活をしているわけではないので,アジアを含めて世界の多くの国で肥満パラドックスが同じようにみられることを説明するのは苦しいでしょう.
なぜならば,米国で『肥満と死亡率』と言えば,それは心疾患死亡率が大部分を占めますが,他の国ではそれほどの密接な関係はないからです.またどの国でも多いのはガン死亡ですが,これはBMIとはおおむねU字型(しかも痩せすぎの方が少し高い)になり,直線的な相関性はありません.

なお,日本でも (死亡率ではありませんが)ガン【発生率】とBMIとの関係はこう報告されています.

JPHC Study

もっとも低いのは やはり BMI=25.0~26.9なのです.

一方 高齢者で太目の人の方が死亡リスクは低いことを説明できるとする論文もあります.

[続く]

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