第65回日本糖尿病学会の感想[7] イメグリミンがデビューしました

【この記事は 第65回日本糖尿病学会 年次学術集会に参加したしらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞き間違い/見間違いによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

昨年9月に イメグリミン がいよいよ日本で発売されました.世界の先頭を切って日本で発売されるのは非常に珍しい例です.

しかも この薬の第Ⅲ相試験は すべて日本人の糖尿病患者を対象に行われています. つまり欧米人糖尿病患者の試験結果を日本人に流用したのではなく,日本人の治験データを基に承認されているのです.

発売元である大日本住友製薬( 現:住友ファーマ 社)のデータによれば,イメグリミンは 単独投与 又は 他の糖尿病薬との併用のどちらにおいても.HbA1cが 0.5~ 0.9% 低下するという結果でした.

しかし,このデータは 厳選された『優秀な患者たち』 を対象にして行われた治験によるものです. ですから,実際の臨床で用いられた時,どの程度の実力が発揮されるのかは不明でした.

また イメグリミンはメトホルミンとよく似た構造 であることから,その副作用もまた似ており,特に(重篤ではないものの)消化器症状が目立つことが 治験で見出されていました. この副作用についても,実臨床で多くの患者に投与された場合には,どの程度になるのかも注目されていました.

今回の学会では,このイメグリミン(商品名:ツイミーグ Twymeeg)の投与症例報告がありました.

イメグリミンに関する発表

学会のプログラムから,イメグリミンに関する発表を拾うと下記の16件が予定されていました.

【口演】

  • [1-8-1] 前治療薬別に検討したイメグリミン治療の有効性及び安全性:日本人2型糖尿病患者を対象としたイメグリミン単剤療法試験の事後解析
  • [1-8-2] 罹病期間別に検討したイメグリミンの有効性及び安全性:日本人2型糖尿病患者を対象としたイメグリミン単剤療法試験の事後解析
  • [1-8-3] イメグリミン治療に対するレスポンダーの特性解析:日本人2型糖尿病患者を対象としたイメグリミン単剤療法試験の事後解析
  • [1-9-4] 2型糖尿病患者におけるイメグリミンの臨床的効果
  • [1-9-5] メタボリックシンドローム関連疾患の有無別でのイメグリミンの有効性及び安全性:日本人2型糖尿病患者を対象としたイメグリミン単剤療法試験の事後解析
  • [1-30-1] イメグリミンの治療効果と安全性に関する検討
  • [1-30-3] FGMを用いた2型糖尿病患者に対するイメグリミンの短期的効果の検討
  • [1-30-4] 肝臓におけるイメグリミンとメトホルミンの作用の類似性と相違性[演題取り下げ]
  • [3-130-1] イメグリミンによるグルカゴン分泌への影響の検討
  • [3-131-4] Imeglimin promotes β―cell survival by modulating the endoplasmic reticulum homeostasis pathway[演題取り下げ]

【ポスター】

  • [P-35-6] イメグリミンは 3T3-L1 脂肪細胞においてグルコースの取り込みを促進し,MCP-1 の産生・分泌を抑制する
  • [P-102-2] イメグリミン治療による有害事象の発現タイミング:日本人 2 型糖尿病患者を対象としたイメグリミン単剤療法試験の事後解析
  • [P-102-3] ミトコンドリア 3243 変異を持つ糖尿病患者へのイメグリミンの効果と安全性についての検討
  • [P-102-4] 2型糖尿病患者にイメグリミンを投与し iCGM で血糖変動や投与前後のインスリン分泌能および抵抗性を評価した 1 例
  • [P-102-5] DPP-4 投与下の 2 型糖尿病患者にイメグリミンを追加投与し,食後血糖改善効果を i-CGM により観察した一例
  • [P-102-6] 糖尿病を発症したミトコンドリア脳筋症(MELAS)にイメグリミンを使用した 1例

ただし,この内 発表件名に[事後解析](= Post-Hoc)とあるものは,イメグリミンの治験 第2相試験(P2b)や第3相試験(TIMES)で得られたデータから一部を取り出して解析したものですから,特に 新しいデータが得られたわけではありません. 当然ながら それらの対象患者は治験の対象者だけです.

また 2件は 発表前に取り下げられました.

その結果,治験ではなく 一般の2型糖尿病患者にイメグリミンを投与した症例は,上記でをつけたもののみでした.ただし昨年の発売から あまり時間がたっていませんので,イメグリミンを実際に病院で投与して,その後の経過を観察できたのは 最長でも6ヶ月でした.したがって,この薬の長期的効果(=52週ほど)はまだ不明です.

ただ,ここまでの結果を見る限りでも,イメグリミンのHbA1c低下効果は,ほぼ治験データをなぞるものになっています.

口演[1-30-1]によれば,既に他の糖尿病薬を服用中でイメグリミンを追加投与された52例(平均年齢:62.9歳,平均BMI:23.2,平均HbA1c:7.2%)の6ヶ月経過では,下図の通り 約0.6%のHbA1c低下がみられました.ただし まだ6ヶ月経過しただけなので,データは横ばいになっておらず,おそらく この後も低下するとすれば 治験データと同様に 1年(52週)で 0.9%ほどになると思われます.

(この図は 発表スライドの手書きスケッチなので 正確ではありません)

HbA1cが緩やかに低下したことがわかります. 特に投与直後1ヶ月ではほとんど低下していません.この『緩やかな低下』はかなり特徴的です. なぜならほとんどの糖尿病薬では 投与直後の1,2ヶ月でガクンと下がり,その後はそれを維持,または徐々にリバウンドするというパターンが多いからです[下図:SGLT2阻害薬の例].

これが偶然なのか,今後多数の投与例でもやはりこうなるのか,つまりこれがイメグリミンの本質的特徴なのかは現時点では不明です.
ただ 別の報告口演[1-9-4]でも,「10例に投与したが,1ヶ月では HbA1c平均値は 7.4 → 7.2%にしか下がらなかった 」とありますので,少なくともイメグリミンを投与しても,すぐ目に見えてHbA1cが下がるということはなさそうです.

そして副作用ですが,これも長期の投与症例を見ないとまだ結論は出せないでしょうが,予想通り 消化管症状が主な副作用であり,重篤なものは稀でした.

次回の学会では,さらに長期の投与症例が 多数報告されるでしょうから,今後に期待したいと思います.

[続く]

コメント

  1. かかか より:

    糖尿病の治療薬で望むのは、体が必要とする量の糖を摂った場合、それをきちんと適所へ運んでくれるものです。そして運ばれた糖がきちんと使われるのが理想です。
    それにしても、10年くらい前から思うと
    いろんな薬が選択できるようになったのは嬉しいですね。

    • しらねのぞるば より:

      >10年くらい前から思うと

      そうですね.2010年くらいまでは 糖尿病は その患者数の割には 薬の種類が極端に少ない病気でしたからね.
      逆に現在では薬が増えたために,特にDPP-4阻害薬がでてからは,食事療法や運動療法などという目に見えて効果が出にくい方法に頼るより,薬をどんどん投与してしまえという安易な方向に流れ過ぎていると思います.