第64回日本糖尿病学会の感想[15] 『グルカゴンの反乱』のその後-1

『グルカゴンの反乱』とは

2年ほど前に この本がちょっとしたブームになりました.

この本の内容については,highbloodglucose様のブログ連載記事[1]~[11]にて,詳しく考察されています.

『反乱軍に体当たりする前に、敵を知る。その1』
どうやら、わたしはとある村のサイエンスチーム/科学班に属していて、クリンゴングルカゴンの反乱に体当たりすることになっているらしい。ネバネバとか胎座とか言うてる…

当時はかなり話題を集めました.しかし惜しいことに この本に書かれている過去の研究報告は,グルカゴンを不正確に測定していた時代のことでした.現在の技術から見ると,当時の測定法ではグルカゴンと グルカゴンに類似した物質(夾雑物)とを区別できていなかったのです.よって たとえば『糖尿病患者では,正常人よりもグルカゴン分泌が2倍に亢進している』などという結果を得ていたとしても,それが正しいのか,また2倍というのが本当なのか,今となっては検証のしようがありません.したがって,この本に続く議論は起こりませんでした.

その後どうなったか

今回の学会で,グルカゴンの正確な定量測定技術を開発した 群馬大学の北村先生が,最近の状況をまとめておられました.

最新のグルカゴン測定精度

上記の講演で,この文献が紹介されていました.

健常人における,耐糖能負荷試験(=OGTT)及び テスト食負荷試験中(=MTT; Meal Tolerance Test)の血中グルカゴン濃度を,3つの異なる測定法で測定した結果を比較したものです.

北村先生が開発した サンドイッチELISA法の測定結果[]は,もっとも精密に測定できる液クロ(LC-MS)-質量分析(MS)法[]とよく一致しています.

一方 従来使われてきた RIA(Radio-Immuno-Assay)法[]は,測定値が一様に高い(=夾雑物まで含めて測定しまっている)だけでなく,変化パターンすらまるで違います.

これでは従来法で測定したグルカゴン値を基準にしていた過去の論文の信頼性は低いでしょう.

サンドイッチELISA法とLC-MS/MS法とでは,測定値は完全に一致しないものの,相関係数=0.879と,従来法の 0.546よりははるかに高いので,サンドイッチELISA法は臨床試験に耐える十分な精度があると思われます, 実際 既に既に臨床試験用 グルカゴン測定Kitも 実用化されています.

Mercodia glucagon ELISA Kit

では このサンドイッチELISA法で測定した場合,糖尿病患者のグルカゴンは本当はどういう挙動なのでしょうか.それは健常人とどれくらい違うのでしょうか.

[16]に続く

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