血糖値とHbA1cの測定精度[5]~自主的に精度管理をしています

我々患者が病院で検査をしてもらってその結果を通知してもらっても,検査の精度管理自体には法規制は存在していない【★】,というのが前回記事までの内容でした.

【★】 西村様からご指摘いただきましたが,検査機の『性能 』 に関しては,独立行政法人 PMDA(医薬品医療機器総合機構)が性能認証を行っています.したがって法規制されていないのは,測定機器(ハード)ではなくて,それらの機器を用いて 所定の精度と品質の検査ができているかどうかを常に管理する『精度管理 』 つまりソフトの問題です.

患者としては驚きます

2017~2018年に厚労省で開催された『検体検査の精度管理等に関する検討会議』 には,医師側だけでなく患者側代表も検討員として参加していたのですが,議事録を見ると患者代表の委員はこんな発言をしています.

患者の立場としては、どこの病院でどの検査を受けてもみんな同じように答えが出ていると思っていたのです。意外にそれはそうではないということなのですが、

『検体検査の精度管理等に関する検討会議』第2回 議事録
伊藤たてお 日本難病・疾病団体協議会理事会参与

もちろん医師の側の言い分も多分こうなのでしょう.

「医療における検査とは,肉屋が牛肉を300g売るのとは違う.商取引ではないから,計量法の適用は受けない. 患者の状態を数値で知るための検査なのだから,これも診察・治療と一体不可分の医療行為なのだ.医療行為の質を法律で縛ることはできない」

これは実際その通りです. 現在でこそ 医療検査は自動化が進んでいますが,大昔には 今でいう医学検査は,ほとんど医師が自分で行っていたのです. たとえば白血球検査などは,医師が患者の耳たぶから採血して,プレパラートに一滴落として 診察室に置いてある顕微鏡を覗いて数えていたのです.「うわぁ白血球が多いな.これは盲腸炎かな?」という具合に.

(C) RyutoOgino さん

また「 医療行為の質を法律で縛ることはできない 」というのは,こういう意味です. 髪の刈り方が下手な理容師と上手い理容師がいたとしても,『下手な人は髪を刈ってはいけない 』 という法律は作れません.理容師を選ぶのは 客であって,法律ではないからです.

自主管理はしています

それでは,病院で行われている諸検査の精度については まったくノーコントロールなのでしょうか?

実はそうではありません. 病院での検査で正確性が保証されているのかどうかについて,誰も何もしていないのではなくて,実際には自主的な管理が行われています.

一例では,日本医師会が1967年から毎年『臨床検査精度管理調査』 というものを行っています.

日本医師会臨床検査精度管理調査の現状
第2回 検体検査の精度管理等に関する検討会議 資料3

これは,日本医師会が 各種の検査用サンプルを作成して,国内の医療機関に送付し,実際にその医療機関で行われている検査法にしたがって得られた結果を回答してもらうというものです. 例えば 血糖値=100mg/dlの血漿サンプル[*]を送り,正確に100mg/dlという結果を出せるかというテストを受けてもらうわけです. もちろんテストなのですから,送ったサンプルの『正解』が 100なのか 105なのかは受験する医療機関には知らされません.わざと103などという,中途半端な数字が正解の試料でテストすることもあります.

[*]ただし,サンプルは,実際に患者から採血したものではありません.このテストを受ける日本の医療機関は 現在3,000ヵ所以上ですから,送付するサンプル総量は何リットルにもなります. したがって 人間の血漿に相当する合成サンプルです.

また 日本医師会だけでなく,日本臨床衛生検査技師会も同様の精度テストを1970年から毎年行っています.

日本臨床衛生検査技師会 精度管理調査事業の概要
第2回 検体検査の精度管理等に関する検討会議 資料4

このテストの結果を見れば.病院での検査がどの程度の正確さで行われているのかがわかります.実際どれくらいだったのでしょうか?

[6]に続く

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