ケトン体は『飢餓時だけに生成される非常エネルギー』なのか[5]

前の記事で;

ケトン体が作られる場所は,ほぼ肝臓のみです.そして 血管を介して多くの臓器にエネルギー源として送られます.

と書きました.しかし主要臓器でありながら,ケトン体をまったく使わない臓器があります.
それは肝臓です.

なんと肝臓は ケトン体の唯一の製造元でありながら自分では使わないのです.
ケトン体を利用するのに必須の Succinyl-CoA : 3-ketoacid CoA Transferase (SCOT) という酵素が 肝臓にだけは存在しないからです.

肝臓以外の臓器では,SCOT酵素の存在により ケトン体は クエン酸回路の一部迂回経路を経由して (ケトン体合成の原料であった)アセチルCoAに戻されて,クエン酸回路で燃焼されます.

したがって 肝臓以外の臓器では,脂肪酸のβ酸化による『国産の』アセチルCoAと,肝臓から送り込まれた『輸入品の』アセチルCoAとが併用してクエン酸回路で使われていることになります.それに加えて血糖=ブドウ糖からも解糖系を介してエネルギーを得ています. つまり 細胞のミトコンドリアは,3種類の燃料を使えるのです.

車は ガソリン又は軽油(ディーゼル)のどちらかの燃料しか使えませんが,細胞のミトコンドリアは ガソリン,軽油,プロパンガス のどれでも使える車のようなものです.

(C) エンリケ さん の写真を加工しました

ところで,ケトン体は 成人の1日の必要カロリーの5~20%をまかなっていると書きましたが,どの臓器でも同じように利用しているわけではありません.ケトン体が大好きでバカスカ消費する大口ユーザーもいれば,あまり使わない小口ユーザーとがあるのです.

それでは ケトン体をもっとも多く消費する臓器はどれなのでしょうか.

[6]に続く

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