第63回日本糖尿病学会でのオンライン参加により 中断していましたが,シリーズ記事の再開です.
ここまでの [1]~[12]までは,主として 納先生のHPに掲載されている健常人26人のボランティアの方々の5時間糖負荷試験(OGTT)の結果を見ると;
- 教科書には『血糖値が上がるとインスリンが分泌され,下がるとインスリン分泌も減る』と書かれているが,
- 26人のデータを見ると,そんな単純な変化ではない.
- しかも 人によって まったくパターンが異なる.
- 特に 血糖値の上下波形とインスリンの高低波形には,電子回路でいう『位相のズレ』がみられ,きれいなリサージュ波形を描く
というところまで話を進めました(進んだのか?).
そして前回[13]では;
では,膵臓β細胞からは,どういう『機序(仕組み)』でインスリンが分泌されているのでしょうか.これについてはネットでも十分な解説がありますので,簡単にふりかえることにします.
インスリン分泌の指示が出るまで
上の図のように,
- 膵臓β細胞表面のGLUT2からブドウ糖が取り込まれ
- →これが膵臓内で代謝されると
- →ATP/ADP比が大きくなり
- →膵臓から細胞外へのK+チャネル(通路)が閉じられて
- →その結果,細胞膜の電位が静的状態から相対的にプラス側に偏り(脱分極),
- →細胞外からのCa++イオンが流入して
- →インスリン顆粒が押し出されるようにβ細胞から分泌される
と,こういうことになっています.これが教科書的解説です. いかにも血糖値が上がれば,ただちに一直線でこの過程が進行するかのように書かれていますが,これらにどれほどの時間を要するのか,また誰でも同じ速度で進行するのかは書かれていません.
β細胞の応答を支配しているのは
しかし,上記の分泌ルートで,重要なプロセスがあります.
(β細胞に取り込まれたブドウ糖が)膵臓内で代謝されると → ATP/ADP比が大きくなり
ここです. ブドウ糖をエネルギー原料として代謝を行うのは,β細胞の中のミトコンドリアです.ミトコンドリアは 細胞にエネルギーを与えるエンジンです. したがって,結局 β細胞が血糖上昇に対応して,どれくらい早く,どれくらいの量でインスリンを分泌できるかは,ミトコンドリアの性能次第だということになります.
エンジンといっても,おばちゃんスクーターの可愛い50cc/5馬力から,化け物のようなF1マシンの3,500cc/1300馬力までピンキリなのと同様です.
次世代新薬として,イメグリミンが期待されているのも,イメグリミンがまさにβ細胞のミトコンドリア機能を改善するのではないか ,つまりエンジンをパワーアップするのではないかと言われているからです.
それだけではなくて
しかも,膵臓からのインスリン分泌は,上記の経路だけで決まるのではありません.それ以外にもインスリン分泌を決定する因子はたくさんあるのです.
[15]に続く
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