今年の糖尿病学会での出来事です
今年の 仙台での日本糖尿病学会(第62回 年次学術集会)の,Featured Symposium 『糖尿病診療における4Pを考える』というテーマで,下記の4つのPについて講演が行われました.
- FS3-1 Predictive = 遺伝子情報から糖尿病の発症・重症化を予測する
- FS3-2 Personalized = ウエアラブルセンサの医療計測応用
- FS3-3 Preventive = IBM Watsonが活用できる未来
- FS3-4 Participatory = 患者参画が変える糖尿病診療の未来
それぞれの講演はとても面白いものでした. 特に 最初の3件(*)は,近未来の話でありまだ完全に実用化されたわけではないのですが,これらが実用化されれば 飛躍的に治療技術が進展するだろうとの期待を抱かせるものでしたから,1,000人収容の仙台国際センター大ホールはビッシリと満席,さらに 立ち見が出るほどの盛況でした.
(*) これらの講演内容は,本日のテーマとは別なので いずれ別記事にてまとめてみます.
興味深い出来事は,この3本の講演の直後に起こったのです.
最初の3件の講演が終わり,4件目の講演が始まると 潮が引くように聴衆は減り,さっきまで満員だった会場はガランとしてしまいました.残った人はわずか400人ほど.
医療の先端技術に関する話なら聞く価値はあるが,『患者の参加』『患者との対話』などが主題(と予測される)の講演など興味がない
という『医師の本音』を垣間見たように感じました.
しかも この4番目の講演の内容で語られた『患者の治療への参画』というのも,たとえば厚労省が発行したパンフレットの紹介に代表されるように;
「患者にどうやって正しい情報を理解させるか」「患者の意識をどう高めるか」という視点であって,そこには『患者は お医者様から正しい知識を教わって,望ましい行動変容を実行しなさい』という,やはり 医師→患者の 上下関係を大前提としていました.
患者の参画とは言っても,患者の主体的参画は 予想も期待もしていないのです.
これは『医師と患者との対話』という言葉が,医師と患者ではその定義が異なるからでしょう.医師からみれば,患者との対話とは,すなわち患者の教育です.『知識』は医師から患者への一方通行です. 医師が患者から得たい情報は,前回のシリーズ記事に書いたように 自覚症状や病気の履歴などの,『事実』だけなのです.
医師から患者には『知識』を与え,患者からは『事実』だけを聞き取る,双方向ではあるが,同時に上下関係もある,これが医師の考える『患者との対話』なのでしょう.
[3]に続く
コメント
>患者からは『事実』だけを聞き取る
それだけでも100%出来れば上出来でしょう。
「お互いの領域に少しだけ踏み込んで物事を考えないと必ず何かが抜け落ちる」と上司や先輩によく言われたものです。
医師はマニュアルじゃなく患者個人々々にもっと興味を持ち、患者は医師の言うことを鵜呑みにせず自分で調べて相談したり、自分の望む治療をはっきりと伝える知識と努力が必要なのでしょうね。その努力はいろんな意味で無駄にはならないと思います。
>>患者からは『事実』だけを聞き取る
>それだけでも100%出来れば
そうですね.患者の発言と事実とを 混同する人があまりに多いので,日本医事新報の記事のように『事実だけを正確に聞き取れ』となるのでしょうね.
まだ 患者の実態を正確に知ろうという気持ちがあるなら上等で,患者とは一言も話さず,ただ検査値の数字だけで,『この患者はこういう状態』と決めつけている医者もいると思います.