管理栄養士の学会[3] 特別食・治療食

【この記事は 第29回 日本病態栄養学会年次学術集会のレポートではなく,オンライン講演を視聴した ぞるばの感想です】

この記事で紹介した,病院の『特別食・治療食』に関する話題です.
しかし,その前に 今大会の菅野会長による「会長講演」に触れておいた方がいいでしょう.

会長講演

30分ほどの短い講演でしたが,中身はすべて興味深いものでした.大要は下記の通りです.

  1. 臨床栄養は,多くの課題・問題を抱えているが,これを過去にとらわれることなく,バランスをとって『持続可能な栄養管理』をめざしていきたい.
  2. 管理栄養士は,英語を怖がらずに,ぜひ論文原文を読み 自分で考えてもらいたい
  3. 管理栄養士が臨床に介入する効果は,薬物治療の尺度で評価すると「有意差なし」とされることが多いが,対人効果でみれば価値は高い
  4. 常食・病院食は単に栄養素・成分のみで定義するのではなく,「治療を目的としているか」で定義されるべき

[1]については,従来 腎症患者への食事療法は 無条件一律に蛋白質制限 一辺倒であったが,『それでは高齢患者は衰弱していくばかり.高齢者こそ十分なタンパク質摂取が必要だ』と,データを示したうえで腎臓学会に働きかけて,ガイドラインを180度転換させたという,菅野先生 ご自身の経験を例示されていました.

[2]を提唱するのは,海外論文の抄訳というものは,どうしてもBiasが入ってしまう[★]から,という理由です.ただ,本年4月頃には,海外の腎症 栄養管理ガイドライン[原文は下記]全文を翻訳したものを日本病態栄養学会のHPから閲覧できるようにするので,まずは原文を読むという体験をしてほしいと紹介しておりました.

KDOQI Clinical Practice Guideline for Nutrition in CKD: 2020 Update

[★] 『Biasが入る』
これはぞるばも経験しました. 海外論文の紹介では,原文とまったく正反対の方向に『脚色』されているということは 珍しくないのです.

[3]については,管理栄養士が介入することにより,患者・医療スタッフのコミニュケーションが明らかに改善されるが,こういう効果を そもそも薬物療法のための数値指標(HbA1cの低下幅etc)で評価するのは適切ではない.

そして [4]は治療食・特別食は どうあるべきか,という内容です. というわけで,この合同パネルディスカッションが,正に このテーマでした.

治療食の見直しに関する3学会合同委員会報告

 

現行の治療食(特別食)
(C) kenthewalker

この記事にも記載したように,厚労省が定めているのは腎臓食,肝臓食,糖尿食,胃潰瘍食,貧血食,膵臓食,脂質異常症食,痛風食,てんかん食,フェニールケトン尿症食,楓糖尿症食,ホモシスチン尿 症食,ガラクトース血症食及び治療乳だけです. もちろん栄養管理・食事調整が必要な疾病はこれらに限らず 無数にあるわけで,現状はここに挙がっていない場合では,拡大解釈した適用がされています.たとえば,「胃潰瘍食」は,十二指腸潰瘍,潰瘍性大腸炎の患者にも出しています.つまり実態がどうであれ,診療報酬請求(レセプト)上は,これらの病名の治療食を提供したことになっているのです.

どうしてこんなことになっているかというと,この厚労省の規定は,1961年(昭和36年)に定められて以来 ,60年以上も一度も改訂されず そのままだからです.

しかも病名羅列で治療食を定義しているので,たとえば 「糖尿病でかつ高血圧」という人と 「糖尿病で腎症」という人とでは 同じ「糖尿食」でいいのかとか,また一般に「膵臓食」とは脂質制限食だが,近年では「膵外分泌機能不全を伴う慢性膵炎の非代償期では画一的な脂肪制限食は行わないことを推奨する」[慢性膵炎ガイドライン 2021 改訂第3版; CQ 4-7]となっており,一律に「膵臓食」という名称では 混乱を招きます.

では治療食とは何か

そこで「治療食」という定義を,「~~のための食事」という曖昧な定義ではなく,そもそも治療食が存在する理由・目的から考えてみると,治療食とは,「治療を目的として,特に調製された食事」なのですから,健常人にとってバランスのとれた食事[常食]を そのまま各疾病に適用することではないでしょう.

病態に最適化したものが治療食なのですから,健常人であれば「バランスがとれていない食事」が,実は その病気にとっては「バランスのとれた食事」になる方がむしろ当然でしょう.たとえば極端に脂質や蛋白質を制限した食事は,健常人にとっては「バランスが崩れている」が,特定の病気にはそうすることが必須なのです.

こう定義してみると,現行の病名と1対1に対応した「~~食よりは」,むしろ機能別・形態・特性別に規格化された「特別食」を定義し,それを各病態に合わせて「治療食」として提供する.こう考えた方がすっきりするという提案が出されています. 具体的には;

  • エネルギー産生栄養素調整食(カロリーやP/F/Cを調節した食事)
  • 食形態調整食(易消化食,粘度調整食,流動食など)
  • ミネラル調整食(Na,K,Ca,P,Fe等)
  • その他(アレルギー対応食,低残渣食等)

のように,「内容を定義して,それを病態に合わせて適用する」という考えです. これであれば,前述の 同じ膵炎でも 時期によっては治療食が変わるという問題も,間違いを生じずに すんなり解決できます.

特別食・治療食にかかる問題は 大きくは この方向で進められていくのでしょう.

ただし このセッションの3本目の講演で解説された 「小児の治療食」は,もっともっと大変です.先天的遺伝疾患・アレルギー・嚥下障害,これらが複数でからむ場合がほとんどで,ほとんど一人一人まったく違う食事になるからです.この場合は 完全な個別化しか解法はありません.

   

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