前回記事 では,IgA腎症の発症機構解明の現状をまとめました.
では,IgA腎症の治療法は どこまで研究されているのでしょうか.
標準治療
日本における IgA腎症の治療については,IgA腎症根治治療ネットワーク や,『IgA腎症 診療ガイドライン2020』 [PDF] に詳しく述べられています.

IgA腎症は 昔は 「良性IgA腎症」「進行性IgA腎症」などという区分をしていたようですが,その後観察研究が進むにつれて,両者は異なるものではなく,ただ時間軸が違うだけで本質的な差はない,したがってどちらも治療は必要であるというのが現在の見解のようです. なので,基本的には扁桃腺摘出(+ステロイドパルス療法)が 現在の日本のIgA腎症の標準療法となっています.この辺の事情は 「境界型糖尿病」と「糖尿病」に本質的な差はないという話に似ています.
扁桃腺が炎症を起こしていなくても,なぜ摘出するのかといえば,扁桃腺への感染刺激が 前回記事で述べた異常構造IgA(=ガラクトース欠損IgA:GdIgA)産生の原因であろうと推定されているからです. ただし IgAはすべての粘膜で産生されており,もっとも多く産生するのは圧倒的に腸管粘膜なのですが,まさか腸を切除はできませんから,感染源に近い扁桃腺切除という選択になっているようです.
以上が現況なのですが,IgA腎症の治療には 新しい動きが出ています.
治療対象の本丸
PubMedで「Treatment for IgA nephropathy(IgA腎症の治療法)」を検索すると;

このように2020年以降,つまり『IgA腎症 治療ガイドライン2020』の最新版が発行された後に,論文が急増していることがわかります.
この文献は その状況をレビューしたものですが;

IgA腎症の治療法については,急速な開発が進行中なのです.
その理由ですが,そもそも IgA腎症の発症機構を見ると,前回記事のマルチヒット仮説の通り;

たしかに発症の起点は異常構造のIgAなのですが,問題を大きく二つに分けて考えると;
(1)異常構造のIgAが発生する
(2)それに対して免疫が過剰応答する
であり,腎障害を引き起こしているのは 前者(Hit 1)ではなく後者(Hit 2と Hit 3;上図の青囲部)なのです.つまり異常IgAはそれだけでは腎症を起こしません. 実際 この文献にもある通り;

ガラクトースが欠損した異常なO-グリカン鎖が結合しているIgAは,IgA腎症の人だけでなく,少数ながら健常な人にもあるのです.
したがって異常構造IgA(GdIgA)は,IgA腎症を引き起こす必要条件ではあっても,十分条件ではないのでしょう.
とすれば,治療のターゲットは (1)の異常構造IgAではなく(そもそも異常構造IgAの発生を完全になくすことは不可能),(2)の免疫過剰応答の方でしょう.こちらが治療の本丸なのです.この観点から,IgA腎症治療薬の開発競争が進行中のようです.
冒頭の文献から,免疫 B細胞/形質細胞,補体形成に関する新薬候補を抜き出すと下の通りです.

また,武田薬品からも,新薬候補メザギタマブ(TAK-079)が 厚労省から希少疾病用医薬品として指定を取得したというアナウンスがありました. メザギタマブは,上表のFertarzamabと同様に,CD38をターゲットとする薬剤です.
これだけの候補があれば,まさか すべて全滅はしないでしょうから,数年後には IgA腎症の治療は様変わりすると期待されます.
【IgA腎症 完】
感想:
つい1か月前の時点では,免役のメの字も知らなかったのですが,今回は随分勉強になりました.

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