実家からの帰途,新幹線を降りて駅近の書店をのぞいたら,北里大学病院の山田悟先生の近著が平積みで売られていました.
発売は3月だったようですが,私が買ったものは 第5刷ですから,よく売れているのでしょう(本日時点のAmazonの売れ筋ランキングでは10位).
内容的には,私のブログでも見てみようかという人には よくご存じの『緩やかな糖質制限=ロカボ』の紹介です.
ですから特に目新しい内容はないのですが,それよりも この本は 健康診断などでメタボと警告された人,若しくは 血糖値が高いと指摘されたのにその後何もしていない人,すなわち『隠れ糖尿病』の人にFocusしていることが特徴です. つまり糖尿病では通院していないわけで,『食後の血糖値が高い』とは 何を意味するかを知らないでしょう. したがって 糖尿病とは何かという そもそもの解説がされています.当然 通院していないので,自分の血糖値など知らないという人がほとんどでしょうから,SMBGやリブレなど聞いたこともないわけで,そういう人のために ドラッグストアに行けば 1回500円ほどで測定してもらえることまで紹介しています.
さらに この本は こう呼びかけています.本の冒頭では;
- おにぎり1個より パテを2枚挟んだ「もりもりバーガー」の方が
- とろろそばよりも 二郎系ラーメンの方が
- サラダチキンよりも鶏のから揚げの方が
糖質疲労が少ない,すなわち 食後の眠気や疲労感が少ないと,まあ 『ヘルシー意識高い系』の人が聞いたら卒倒しそうなことが 写真付きで主張されています.
最初の「もりもりバーガーでは血糖値が上がらない」ことは,私自身の実験でも確認しています.脂質の多い食事ほど食後の血糖値上昇は穏やかなのです.
たしかに私が糖質制限食に切り替えた頃は,昼食後の眠気がなくなり,しかも 食後ずっと 満腹でも空腹でもないという状態がいつまでも続くので,次の食事時になっても気づかずに仕事を続けておりました.
ともあれ,こういう本が出版され しかもよく売れているとは,私が初めて日本糖尿病学会や日本病態栄養学会に野次馬参加した頃 からみると 隔世の感があります.
コメント
私も第5刷をちょっと前にAmazonでポチって読みました。購入の動機は山田医師の低糖質に対する考えがどう変わったのか(変わってないのか)と言うところへの興味です。
山田医師は以前よりスーパー糖質制限ではなくゆるい糖質制限(ロカボ)を提唱されていますが、それはケトン体に対するエビデンスがない事、医師である以上、エビデンスがないものを進める事はできないという立ち位置であり、江部医師との対談でもそう述べていました。
それから5〜6年が経ち、どのような変化があったのかを知りたかったのですが、結論から言えば基本的な考えに変化はないというのが私の感想です。
ただ、健康食としての糖質制限食と言う意味でのロカボ推奨と言う立場をとられているように思います。この傾向も以前より変化はないように感じます。
では糖尿病の治療食、急性期の食事としてのスーパー糖質制限についてどう考えているのか、今回の著書でも知ることができなかったのは残念でした。もちろん江部先生はスーパー糖質制限は健康食であり治療食と仰っており、ケトン食は治療食であるとおっしゃっています。
>ケトン体に対するエビデンス
山田先生がケトン体に対してなお慎重なのは二つの理由ではないでしょうか.一つはこの本にも書いているように,高ケトン状態が妊婦に与える影響を 多数の症例で詳しく調べた文献がないこと. そしてもう一つは 500~10万人に一人と言われる,先天的脂質代謝異常症が存在すること.後者は明らかに高ケトン食は不適です. したがって 医師としては『糖質制限食は誰がやっても安全です』とまでは言い切れないでしょうね.ただしケトン体が『毒物』ではないことは この本のp.127でも述べています.
>スーパー糖質制限についてどう考えているのか
この本が想定する読者層は糖尿病予備軍までの人ですから,そこまで触れる必要はなかったのでしょうね. ただ1食当たり20g以下の糖質というのは,やはりできる人/できない人が分かれると思います. 私も1食だけなら 糖質~10g程度の食事を摂ることがありますが,それはたまたまそうなっただけであり,毎日・毎食となると 調味料や揚げ物の衣まで外さなくてはならなくなるので 継続は困難です.