カンゾウ(甘草)
カンゾウ(甘草)は,漢方薬ではもっともポピュラーなもので,解熱・消炎・鎮痛・去痰などの作用があるそうです.
その薬用成分であるグリチルリチン(Glycyrrhizin)は,砂糖の150倍の甘さがあり,これが甘草という名前の由来でもあります.
今から30年以上も前に,甘草(西洋名:Licorice)には,11β-HSD1酵素を阻害する成分が存在しているようだと報告されました.
それまでにも,甘草を過剰に服用すると,浮腫・高血圧・低カリウム血症が生ずることが知られており,副腎皮質ホルモンであるアルドステロンの分泌が亢進するのだろうと言われていました. しかし,この論文で 著者は,アルドステロンの分泌が増えたのではなく,コルチゾールが減少したために,あたかも 相対的にアルドステロンが増えたように見える『偽アルドステロン症』であること, そして 甘草に含まれるグリチルリチンが11β-HSD酵素を阻害してコルチゾールを減少させたことを示しました.
カルベノキソロン Carbenoxolone
そこでグリチルリチンの類似化合物を探索したところ,カルベノキソロンが 強力な 11β-HSD阻害効果を持つことが確認されました.
カルベノキソロンの薬効は この文献で報告されています.
健康な7人の男性が カルベノキソロンを服用したところ,プラセボ対比で血糖値は変わらないのですが,その時の血中インスリン値は(有意差はつかなかったものの[*])大幅に低い,つまりインスリン感受性が高くなっていたのです.これは肝臓において カルベノキソロンが 11β-HSD1酵素を阻害して,コルチゾールを抑制した結果でした.
[*] これは対象人数が7人と少なすぎたためでしょう. これほど大きな低下ですから,人数が多ければ確実に有意差ありとなったはずです.
新規な糖尿病薬が完成したかにみえましたが,カルベノキソロンには弱点がありました.カルベノキソロンは 11β-HSD酵素の Type1もType2も無差別に阻害することがわかったからです. こうなると腎臓ではアルドステロンなどのミネラルコルチコイドが過剰となり,高Na+,低K+,したがって高血圧となる副作用が発生します.つまりカルベノキソロンのお手本となった 甘草のグリチルリチンと同じ欠点を持っていたのです.
[続く]
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