11β-HSD1阻害薬[6] 糖尿病患者への投与結果

11β-HSD1阻害薬として,現在もっとも有力視されている Incyte社のINCB13739の第2相 臨床試験結果が報告されています.

Rosenstock 2010

この試験では,それまでにメトホルミン単独(平均=1,500mg/日)治療を10週以上受けているにもかかわらず平均 HbA1c=8.3%と 血糖コントロール不良の糖尿病患者302名(平均年齢=52-54歳)を6群に分けて,それぞれ INCB13739を 5/15/50/100/200mg 及び プラセボを1日1回服用してもらい,12週後の血糖値変化を観測しました.

12週間までの空腹時血糖値とHbA1cの変化は以下の通りです.

Rosenstock 2010 Fig.1を翻訳
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空腹時血糖値もHbA1cも投与後 順調に下がっています. ただこの結果をみると それほど強力な薬というわけではなさそうです. 既にメトホルミンを単独服用していた人ですが,対象者の平均BMIが32~34ですから かなりインスリン抵抗性が強いのかもしれません.もっともこれくらいが欧米糖尿病患者の典型です.

なお 対象患者を 投与量で5群に分けましたが,

Rosenstock 2010 Fig.1を翻訳

上記の 100,200mg/日よりも少ない投与量の場合は ほとんど有意な効果はみられませんでした.

そして過去の11β-HSD1阻害薬で,もっとも問題となった Na+の増加,K+の低下,及びアルドステロン過剰症候はまったく観察されませんでした.

ただし,この記事でも述べた通り,11β-HSD1阻害薬は不活性型のコルチゾンから活性型のコルチゾールへの再生は妨害しますが,この記事に書いたように,脳の視床下部からの指令を受けて副腎皮質でコルチゾールが産生されるのは妨害しません. つまりコルチゾール再生が妨害された分だけ それを補うように 副腎皮質でのコルチゾール産生が亢進する可能性はあります.

たしかにこの試験でも,被験者の血中ACTH(=これは 視床下部の指令を受けて脳下垂体から出される副腎皮質ホルモンを『増やせ』という命令です)濃度は,INCB13739の投与量に比例して,試験4週目まで高くなりました.

Rosenstock 2010 Fig.2を翻訳

しかし,4週目以降は増加せず,試験終了後には 200mg投与群でもほぼ元に戻っていました.

以上の結果から,著者は11β-HSD1阻害薬であるINCB13739は,有効な糖尿病治療薬になりうると結論づけています.

[続く]

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