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『あれこれ迷う必要はない,うちの店に来たからにはこれだけを食べればよい』という心意気は見上げたものです.

2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム

ところで2022年9月5日に 日本糖尿病学会が『2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム』(=以下『アルゴリズム』)[PDF]を発表しました.

(C)日本糖尿病学会

学会は,従来『糖尿病診療ガイドライン』でも『糖尿病治療ガイド』でも,2型糖尿病の投薬については すべての薬を 横並びに紹介するのみで,どの薬を最初に使うべきかについては優先順位をつけていませんでした.

ところが,今回発表した『アルゴリズム』では,下記の4STEPにより,患者にもっとも適切な糖尿病薬を選定するよう推奨しています.

STEP 1:患者が肥満かそうでないか
 ↓
STEP 2:禁忌・要注意など安全性に配慮すべき項目があるか
 ↓
STEP 3:糖尿病以外の持病・リスクがあるか
 ↓
STEP 4:患者の服薬遵守率や経済的事情なども勘案

これは,北里大学の山田悟先生も述べておられるように(Medical Tribune: 全文を読むには要登録),日本の2型糖尿病患者には,肥満の人よりも 肥満でない人の方が多いのに,従来の学会の立場ではそれらを区別せず,もっぱら糖尿病患者=肥満と決めつけてきたことからみれば画期的なことです.

とはいえ,上記の『アルゴリズム』で推奨されている薬の選択基準は,別段目新しいものではなく,もうずいぶん前から言われてきていたことをまとめたにすぎません.

なぜ 今?

学会は なぜ 今 この時期になって『アルゴリズム』を発表したのでしょうか? 以下 ぞるばの勝手な推測です.
この『アルゴリズム』の p.3右段にこういう文章があります.

非認定教育施設のうち38.2 %において,10 例以上の初回投与症例の中で 1 例もビグアナイド薬が処方されていないこと,DPP-4阻害薬の処方にもJDS認定教育施設と非認定教育施設の間に大きな違いがあることがわかった(非認定教育施設の中には,ほぼ 100 %の患者に DPP-4 阻害薬を使用している施設も少なからずあった).

日本糖尿病学会 『2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム』 p.3

2021年5月にオンラインで開催された 第64回日本糖尿病学会 年次学術集会でこういう報告がありました.

厚労省に集約されている保険資料報酬データベース(NDBオープンデータ )を分析して,医療施設別の投薬状況を整理したところ,2型糖糖尿病の薬は何種類もあるのに,特定の一つの薬(DPP-4阻害薬)に極端に偏っている病院や,逆にメトホルミンだけは絶対に使わない病院があることが判明したのです.

そういった病院に『どう考えても DPP-4阻害薬以外は投薬できない患者』や『絶対にメトホルミンを投薬してはいけない禁忌の患者』だけが偶然にも集中来院したのでしょうか? ありえないですね.

  • 『糖尿病患者には 全員に制約の少ないDPP-4阻害薬さえ出しておけば間違いない』
  • 『メトホルミンは乳酸アシドーシスが出るから,絶対に処方するな(←何十年も前の情報に縛られている)』

たとえば明らかに経済的に困窮している糖尿病患者がいたとして,そして その病態が軽度でごく一般的なものであれば,わざわざ高価な薬を出さなくても 一番安価なメトホルミンを処方するという親切心があってしかるべきでしょう. メトホルミンでもDPP-4阻害薬のどちらでもいいのに,高価なDPP-4阻害薬しか処方しなければ,いずれはその患者は医療費が払えなくなり治療を断念するかもしれません.患者が悲惨な状態に陥る可能性に目を向けないのであれば,それは医療ではありません. 単に杜撰なだけです.

しかし,これまではそういう病院に対して『その投薬選定はおかしいではないか』と指摘しようにも,その根拠がありませんでした.なにしろガイドラインでは,すべての薬を横並びに紹介しているだけで,その選定は医師が決める,とされていたからです.極端に1つの薬に集中していても,あるいは 特定の薬だけは絶対に処方しない病院があっても,それを是正するよう要求することはできませんでした.

今回 学会が『2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム』を発表したのは,一人一人の患者をよく見れば,『どんな患者でも糖尿病ならこの薬を出しておけ』などということはありえないのだとアピールすることも目的だったのではないでしょうか.

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