四季折々の血糖値:季節で血糖値は変わるか

季節により血糖値やHbA1cは変動するのでしょうか?

そう思って 先日 highbloodglucose 様のブログを眺めていたら;

医師は、「まあ、寒くなってくると、これくらい血糖値が上がることは珍しくないし」と言った

一般に寒い季節には血糖値は上がりやすいと言われているようです.

医学文献では

文献を探すと,血糖値の季節変動を報告したものはあるにはあるのですが,多くの人の平均値であり,その結論も一致しておりません.その国の気候・食文化,それに年齢や性別によっても影響されているようです.

その中でも かなり明瞭に季節変動を報告している文献がありました.

Primary Diabetes Care (3) 2009, 111-114[PDF]

ギリシャ アテネの沖合のサラミス島(*)からの報告です.

(*)紀元前480年にアケメネス朝ペルシアとギリシャが戦ったペルシャ戦争で『サラミスの海戦』が行われたところです.

この島は四季の区別がはっきりとしており,年間の寒暖差(冬~5℃,夏~30℃;アテネ) も日本と似ています.ただし湿度に関しては日本と逆で,夏に低く 冬に高いようです.
この島の病院に通院している糖尿病患者 638人(男 294;女 344)の記録をまとめています.

空腹時血糖値,HbA1c共に 2~3月の冬に高く,8月の夏に低いという 明瞭な季節変動がみてとれます.

ただし,このデータの対象患者は 以下のような人達で;

  • 平均年齢 65歳
  • 糖尿病平均罹病機関 8.6年
  • 平均BMI
  • 54%がBMI>=30の肥満
  • 35%がBMI>=25,<30の過体重

日本の基準ではほとんどの人が肥満又は高度肥満であること,また空腹時血糖値が140前後,HbA1cも7%と中程度の糖尿病です.
逆に言えば,これくらいの糖尿病だからこそ 季節変動がきれいに観測されたのではないかと思われます.

自前のデータではどうか

ところで この文献を読みながら,先日の私のこの記事に思い当たりました.

これは長期間にわたって,同一人(=しらねのぞるば)が,ほぼ同じ食事(=大豆パンの朝食)を食べた場合だけの食後血糖値をまとめたものです.

ということは,このデータを季節別に再分類したら,季節変動がみられるのかわかるのではないかと思ったのです.

その結果がこちらです.
なお,このデータは,糖質制限食が定着し,朝食メニューがほぼ一定になった2014年以降のデータのみを集計しています.

食後1時間値でみると,厳寒期(12-02月)が138±15,真夏期間(06-08月)が133±18であり,春(03-05月)と秋(09-11月)がその間にきているので,『冬に上がりやすく,夏に低い』という傾向はあるようです(ただし有意差はありません).

ところが食後2時間値でみると,夏が 107±10で高く,秋が 96±7と低くなっており,この比較のみ有意差がありました.この差は 食後どれくらい動いたかにも左右されているのではないかと思います.真夏の暑いときには,食後はあまりバタバタと動きたくないからですね.

有意差なしのわずかな差ですが,1時間後血糖値が 冬に高く,夏に低いという傾向が ここでもみられました.

ほとんどの文献で報告されている血糖値(又は HbA1c)の季節変動は,多数の人の平均値です.
このことは 全般的傾向を見るのに適切と思いがちですが,実は;

  • 多数の人がそれぞれ自由に異なる食事を摂った結果である
  • 一人当たりのデータはそれほど多くない(ほとんどが通院時の病院での測定なので,せいぜい 12回/人/年のデータ)

なので,バラツキが大きく なかなか有意差を見出すのは難しいようです.

これに対して 私のデータは 正反対です.

  • たった一人の人間が 同じような朝食を食べた場合のデータ
  • (病院測定ではなく SMBG測定だが) 測定頻度が高い(上のグラフのデータ総数は1,000点に近いです)

つまり個人差の要因がまったく入り込んでいないので,バラツキが非常に小さくなっています.実際 直近のデータの標準偏差は ほとんどSMBG自身の測定誤差にほぼ等しいほど小さくなっています.

そして なによりいいのは,これは 遠い外国のデータではなく,また欧米人のデータでもなく,正真正銘 【自分のデータ】であるということです.

反面,私のデータは そのまま他の人にあてはめることはできないということも意味します.その場合は『個人差』という交絡因子が入り込むからです.

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    退職してから、活動量(通勤による歩行、頭脳労働等)が減少し、それに伴って早朝空腹時血糖値がジワジワと高くなり110mg/dLを超えることが多くなっています(10~15mg/dL程度の上昇)。
    その他の時間帯もベース血糖値の上昇に伴い上がっているような気がします(※)。食事は特に変えていませんので活動量が影響していると思われます。
    これらを考えると冬季に血糖値が高くなるのは、活動量が少なくなるためではないでしょうか。因みに活動量が落ちるとケトン体も増えません。
    これから私の趣味であるスキーシーズンです。年が明ければ運動量が増え、それに伴い血糖値がどう変化するのか、シーズン終了時に結果を報告させていただきます。

    (※)これまでリブレでおよそ3年半の間、24時間測定していましたが、退職して予算の都合上、SMBGでの朝食前の測定を基本として、後は抜き打ち的に血糖値とケトン体値を測定しています。
    この方法で、HbA1cが維持できるのか実験することにしています。

    • しらねのぞるば より:

      >早朝空腹時血糖値がジワジワと高くなり
      >食事は特に変えていません

      食事の内容・量は変わっていないとしても,時刻はどうでしょうか?
      私は退職したら,夕飯は 17-18時頃になりました. で,遅くとも21時には寝ています.必然的に朝は5時頃に起きるので,朝食は6時頃です.つまり 完全に朝型になりました.

      血糖値や血圧の季節変動は,いろいろな説があるようですが,どれも完全に説明できていないようです.

  2. highbloodglucose より:

    ギリシャのデータは興味深いですね。
    少なくともこの集団では、明らかに季節変動があるんですね。
    しかも、空腹時血糖値が急激に悪化しているのが9月から10月の間という点が興味深い。
    ギリシャの気候がどうなのか分からないけれど、日本の標準的な気候で考えると、9月から10月というのは、まだ「寒い!」という状況ではないですよね。むしろ、一番過ごしやすい季節だと思います。暑い真夏よりも活動量が増えそうな気がします。
    なので、「寒くなったから・活動量が減ったから血糖値が悪化した」わけではなさそう。
    「暑くて食欲が落ちてたけど、涼しくなって食欲が増した」という理由で血糖値が上がっているのでなければ、やはりなにか生理的な変化が起きているということですよね。
    じゃあ、具体的になにが起きているのか…?

    涼しくなってくると、体が「これから寒い季節になる」と予測し、冬になる前にインスリン拮抗ホルモンを多く分泌するなどの対応をしているんでしょうか。
    担当医は「脂肪をため込もうとする」と説明しましたが、それはやはり、なにかホルモンの変化が起きているということかと思うのですが、その辺のメカニズムが知りたいですね。

    わたしの場合、今までに投薬内容がちょくちょく変更されており、また、持効型インスリンの単位数を都度変更しているので、過去の自分のデータを眺めても、早朝空腹時血糖値の季節変動がイマイチ分からないんですよねぇ。
    ぞるばさんのように、無投薬(もしくは処方の変更なし)で、しかも朝食の内容が毎日ほぼ同じだと、長年のデータでいろいろ解析できるので面白いですね。

    • しらねのぞるば より:

      血糖値・HbA1cや血圧の季節変動には,報文の数こそ結構多いのですが,結論はバラついていますね.

      ギリシャのこのデータは 離島の小集団であり,対象はほぼ全員が島民でしょうから,同じライフスタイルなので 割合季節変動がきれいに出たのだと思います.
      そこで,不肖 ぞるばのデータは,同一人が同じ食事を食べていて,しかも長期・多数のデータですから,もっと鮮やかに季節変動が出るのかと期待したのですが,弱い傾向しか見られませんでした.

  3. Funa より:

    季節による変化だと運動量もそうですが
    食べるものの変化もありそうですね。
    野菜が減り芋が増えるとか
    一年中スーパーで同じような野菜の買える日本では影響が少なかったりするかもしれません。
    あと気になるのが日光を浴びる量です。

    • しらねのぞるば より:

      > 日光を浴びる量

      このサラミス島を含むアテネ付近の気候は,夏は快晴が続き,冬は 強風の曇り続きだそうです. つまり年間で 晴天日数が大きく変動する地域なので,たしかに日光の影響は大きそうですね.