第64回日本糖尿病学会の感想[14] 薬の選択-3

  • 糖尿病の投薬選択・投薬順序に関して,日本には欧米のような『標準的投薬選択アルゴリズム』は存在しない
  • したがって,病院・医師によっては 同じような病状であっても,薬の処方がまるで違うこともありえる

これが前回までの内容です.

今回の学会では,これに関連した 興味深い討論が行われていました.

軽度/中度/重度の2型糖尿病,及び1型糖尿病患者の それぞれの症例で,『次に追加処方する最適の薬剤は何か』という命題が出されています.

これに対して 3~4人の糖尿病専門医が,それぞれ もっとも適切と思う『次の一手』を提案して,

『この薬が最適だ!』

『とんでもない,こっちだろ!』

と討論を戦わせるという企画です. 実際 提示された症例は,実在ケースを基にしているので 判断に迷うようなものばかりでした.

それぞれのテーマについて 登場した演者の先生方もノリノリで,この企画を盛り上げるべく,自説の利点と他説への攻撃を面白おかしく話しておりました. 自ら楽しんでいる様子です.
もちろん 提案された『次の一手』は,すべて妥当な根拠のあるものですから,ディベートとは言っても 明らかな優劣はつきません.

この企画の秀逸なのは,1つのテーマ毎に,ディベート終了後に Liveで視聴していた人による決戦投票を募った点です.
どのテーマについても 総計300〰360名の投票がありましたが(ほとんどは専門医でしょう),興味深いことに,どのテーマにおいても,投票結果はほぼ均等にばらけました. つまり,判断に迷うような症例では,やはりそれぞれの医師の考え方が違うので,『次の投薬』も 一つとは限らない,即ち 同じ症例でも 医師によって全く異なる選択がありえることを 示してくれた企画でした.

この企画を思いついた先生に一票入れておきます.

薬の選択 [了]

[15]に続く

コメント

  1. highbloodglucose より:

    面白い企画ですね。
    特に、壇上でのディベートだけじゃなく、リアルタイムで決選投票をおこなうというのが面白い。

    わたしとしては、やっぱり以下の症例でどのようなディベートになるのか知りたいです。

    「80歳近い後期高齢男性、身長167cm、体重59kg(BMI 21.2)、HbA1c 7.3%。糖尿病治療薬はジャヌビアを服用中。長年、HbA1cは6%台後半を維持していたが、ここ数年で7%を超えるようになってきた。この患者に対して、次の一手は何があるか?」

    父親のかかりつけ医が主張する「あと1キロやせる」か、わたしの担当医が主張した「GLP-1RA(体重減少効果が小さいデュラグルチド)に切り替える」か、はたまた別の一手か、興味あるなぁ。

    • しらねのぞるば より:

      >次の一手

      自由に炭水化物を食べていて 長年 6%台後半を保ってきたのですから,リスク・ベネフィットを考慮すれば,今 投薬を増やしたり,増量するのは 効果が出る前にまず副作用に遭遇しないでしょうか.

      私の次の一手は,投薬はこのままで,炭水化物の一部を豆腐などに置き換える,『減 糖質 増 蛋白』,かつカロリーUpですね.現在のお父様の主治医も,HbA1cが下がったのをみれば 体重を減らせとは言わなくなるのではないでしょうか.

      • highbloodglucose より:

        >炭水化物の一部を豆腐などに置き換える,『減 糖質 増 蛋白』

        これができればねぇ…
        なんせ、カップ麺に餅をぶっ込んで食べたがる、炭水化物ラブ人間ですから難しいです。
        ぶち込むなら、せめてゆで玉子にしてくれと思うんですけど、餅一択です。

        あるいは、素麺単体のみ、あるいは、間食ではなく昼食としてのぜんざい、とか。

        手作り低糖質プリンとか低糖質アイスならタンパク質と脂質でカロリーアップできそうだし、父親も喜んで食べるんですけどね。食事で『減 糖質 増 蛋白』は難易度が高いです…

        • しらねのぞるば より:

          私も 育ち盛りの時には炭水化物を 口いっぱいに頬張ると至福を感じていましたが,

          >餅一択です
          >間食ではなく昼食としてのぜんざい

          さすがにこれはやったことはありません.筋金入りですね.
          それでこのHbA1cなのであれば,よほど強靭な膵臓なのでしょうか.

          高齢になればなるほど 好物だけに偏っていくのは全般的傾向ですから,食後血糖値データを見せられても ビクともしないでしょうね.
          主治医は そこを見抜いて 食嗜好が変えられないのであれば,せめて食事量全体を減らして炭水化物摂取量を減らそうという考えかもしれません.ただ筋低下が懸念されます.