第64回日本糖尿病学会の感想[13] 薬の選択-2

第64回日本糖尿病学会のシンポジウムで,

どんな糖尿病患者が来ても,第一薬として絶対にメトホルミンを使わない

そういう病院があると報告されていて驚きました.

たしかにメトホルミンを投与してはいけない[=禁忌]患者は存在します.日本糖尿病学会が2020年3月27日に発表した『メトホルミンの適正使用に関する Recommendation』 には,メトホルミンが禁忌である例が示されています.

  1. 腎機能障害患者(透析患者を含む)
  2. 脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取などの患者への注意・指導が必要な状態
  3. 心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者

上記に加えて,『高齢者には慎重投与』との注意はありますが,禁忌ではありません.
また『経口摂取が困難な患者や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないこと』とありますが,これはメトホルミンに限らず,そもそも薬の投与が不可能な場合のことです.

つまり,『第一薬として絶対にメトホルミンを使わない』病院には,上記の 1)~3)に該当する患者だけが殺到したということになります.

もちろん そんなことはありえないので,それらの病院がメトホルミンを使わないのは,ただ単に『主義』なのでしょう.

それでは,医師が糖尿病患者の薬を選択する時には,何を基準にしているのでしょうか?

欧米では

欧米の糖尿病ガイドラインを見ると,糖尿病の投薬順序については かなり明確なガイドラインが示されています.最新のADA(米国糖尿病学会)/EASD(欧州糖尿病学会)の合同コンセンサスレポートでは 2型糖尿病の投薬手順が詳細に示されています.

小さくて見にくいですが,従来と同様に;

  • とりあえず最初はメトホルミン.
  • その次には,患者の心疾患リスクがある場合には,SGLT2阻害薬を中心にする
  • それもない場合には,低血糖リスク/減量の必要性/患者の金銭負担 のいずれを重視するかによって,それぞれの投薬コースとする

とかなり割り切った,そしてわかりやすいガイドライン[★]です.

[★]もちろん 日本でも欧米でも,医師が学会のガイドラインに必ず従わねばならないという義務はありません. (ただし 欧米,特に米国では ガイドラインに従っておらずに患者が死亡すると,巨額の賠償訴訟を起こされるかもしれない,という事情はあります)

日本では

しかし,日本では欧米のような投薬手順を案内する指針はいっさいありません. 学会が発行する最新の『糖尿病治療ガイド 2020-2021』でも,糖尿病薬の種類と主作用は解説されていますが,

『糖尿病治療ガイド 2020-2021』 p.38より[一部]
(C) 日本糖尿病学会

その使用手順などは規定していません. どの薬をどんな順番で使うかは,ただ『患者の病態を考慮して適切に』とあるだけです.つまり,日本では

『標準的な糖尿病薬の投薬方法』は存在しません

ですから,同じような程度の糖尿病患者がいたとしても,処方される薬が,地域によって,あるいは医師によって まったく違うこともあるわけです.

[14]に続く

コメント