インスリン抵抗性を考えてみました[7] 現在はHOMA2に

HOMA-R式のメリット・デメリット

精度はかなり劣るものの,1回の採血で患者の インスリン抵抗性を推定できる HOMA-R式は,使い勝手のいいものです.

しかし,以下のような問題もあります.

HOMA-R式は,クランプ試験などの実測値データから数値解析したHOMAを,さらに近似的に算出できるようにしたものですから,HOMAのインスリン抵抗値そのものではありません.

ネットの解説や書物では,HOMA-R式がインスリン抵抗値そのものであるかのように書いてあるのをみかけますが,それは間違いです.


HOMA-R式は適用範囲が狭く,空腹時血糖値が140より高い人は,HOMAとのズレが大きくなります.

更に 元の HOMAチャートにしても.

できるだけクランプ試験結果に近くなるように計算したものですが,数値シミュレーションである以上,クランプ試験と完全に一致するわけではありません.
更に このHOMAが提案された時代は,まだコンピュータの能力が低くて,計算量を減らすために厳密な数値解を一部簡略化していました.

HOMA2の登場

このような HOMA(及び その簡易計算式である HOMA-R)の問題点を改善すべく,HOMA2が提案されました.

これはその後のコンピュータ計算能力向上を受けて,数値解析精度を飛躍的に高めたものです. 従来のHOMAに対して,こちらはHOMA2と呼ばれます(区別の都合上,以下 従来のHOMAをHOMA1と呼びます).
なお,Ahlqvist博士が,『糖尿病の新分類』を発表したクラスター分析では,解析用の変数に このHOMA2を用いていました.

HOMA2の精度が高まったことは,このチャートを見れば明らかです.

HOMA1では,おおまかな直線や単純な双曲線カーブで表されていた インスリン感受性(%S)や膵臓β機能(%B)は,複雑な曲線になっています.
HOMA1HOMA2とで,どれくらい変わったかは,2つのチャートを重ねてみるとわかります.適用可能範囲も広がりました.

の空腹時血糖値=140,空腹時インスリン=23の人は,HOMA1ではインスリン抵抗性が8.0(=インスリン感受性12.5%の逆数)でしたが,HOMA2では4.0(同25%)になっています.

しかもHOMA2の複雑な曲線は,もはや従来のHOMA-R式のような簡易推算式では近似できません.
その代わりに,空腹時の血糖値/インスリン値を入力すると,HOMA2を示してくれる HOMA2 Calculatorが用意されています.

日本では まだほとんど使われていませんが,欧米文献では HOMAと言えば,このHOMA2が使われることが多くなったようです.

ご自分の空腹時血糖値/インスリン値が分かる方は,従来の荒い近似のHOMA1ではなく,またさらにそれを簡略化したHOMA-R計算式でもなく,このHOMA2を判定のツールにすることをお勧めします.

[8]に続く

コメント

  1. highbloodglucose より:

    わー、面白そう!と思って、カリキュレーターを早速ダウンロードして、自分の入院時のデータを入れてみました(血糖値489 mg/dl、インスリン1.9 µU/ml)。
    そしたら、「血糖値は450まで!」と拒否されてしまいました(涙)

    仕方なく、空腹時に測定した血糖値110、Cペプチド0.68 ng/mlで計算してみたものの、これは持効型インスリンを使っての値ですから意味ないですね。
    持効型インスリンを体重あたり何単位使っているかのデータも用いて計算できるといいのにな。
    外因性インスリンの場合は肝臓への効果はほとんどなくて、筋肉と脂肪への作用を見ることになるんでしょうけど。

    日本で一般的なHOMA1だとCペプチド値では計算できるカリキュレーターを見かけたことないけど、これはCペプチド値でも計算できるのがいいですね。

    • しらねのぞるば より:

      > これはCペプチド値でも

      Ahlqvist博士が 最初に糖尿病の新分類を発表した際に用いた HOMA2指標も 空腹時BG と C-Peptideから計算していましたね.その他の文献でも『通常 空腹時インスリンを測定することはない』などという記述があるので,海外では C-Peptideの方が多いのでしょうか. あるいはインスリンの方が検査コストが高いのかも.

  2. highbloodglucose より:

    >海外では C-Peptideの方が多い

    よく分かりませんが、インスリン治療をしていない人でもCペプチドで測定している海外の報告を見かけますね。

    >インスリンの方が検査コストが高い

    インスリンもCペプチドも抗体を用いた測定(EIAかECLIA?)だと思うのですが、代謝の違いにより血中濃度(モル比)はインスリンよりCペプチドの方が数倍高いので、Cペプチドの方が測定しやすいというのはあるのかもしれませんね。

    HOMA2カリキュレーターに適当な数字を放り込んで計算させようとしたんですけど、インスリンは2.9〜57.6 µU/mlの範囲じゃないとダメと言われてしまいました。(Cペプチドは0.6〜10.5 ng/dl)
    えー、これではHOMA2を計算できない日本人がたくさんいそうです。
    逆に、空腹時に57.6まではいらない…

    では、血糖値上限の450、インスリン下限の2.9で計算すると、%Bは2.2、%Sは5.6、IRは17.86。
    えっと… β細胞機能は2.2とものすごく低く、インスリン感受性は5.6とめちゃくちゃ低く、したがってその逆数である抵抗性は17.86もある、ということ…?

    健常人の空腹時血糖値が90 mg/dlだとすると、β細胞機能を100と表示させるには、インスリン量は8.3 µU/ml必要なんですね。
    日本人に多そうな、インスリン5 µU/mlで計算すると、%Bは50.6と機能が半分低下していることになってしまいます。そして、%Sは254.3と、これはもうスーパーセンシティブですね。

    • しらねのぞるば より:

      >日本人に多そうな、インスリン5 µU/ml

      そうです.かつてこの記事でも書きましたが;

      https://shiranenozorba.com/2019_05_12_lean-dm/

      海外のデータを標準とすると,日本人はほぼ全員が『生まれた時からインスリン分泌不全』になってしまうのですよね.

      したがって,学会も 日本人のクランプ試験データを集めて 独自にHOMA-Jでも作るべきなのですが,『糖尿病は食の欧米化に伴うインスリン抵抗性が発症原因』と,ここだけは海外のデータを流用していながら,明らかに日本人には適合していないデータには,気づかないふりをする.

      最近もMedical Tribuneで紹介されたこの論文で,順天堂大学は

      https://medical-tribune.co.jp/news/2021/0224535386/

      痩せていてもインスリン抵抗性があると主張していますが,BMIが18.5未満の女性に体重100kgの人と同じ 75gのブドウ糖を飲ませて,『OGTT 2時間値が140を越えているから肥満体質だ』とは,もう支離滅裂だと思います.