クリニックでは どんな栄養指導を?[1]

2019年に日本糖尿病学会は改訂された『糖尿病診療ガイドライン 2019』を発行しました. そこでは

「食事療法は 患者ひとりひとりごとに個別化されるべきだ」

という原則が表明されています. これは それ以前の糖尿病学会の姿勢を180度転換したに等しいものです. なぜなら,それまで日本糖尿病学会は『食品交換表に基づくカロリー制限食は 理想的な食事療法であり,すべての糖尿病患者に一律に適用しなければならない』という方針だったからです.

これで もっとも困惑しているのは,糖尿病治療の最前線,とりわけ各病院・クリニックで患者の栄養指導にあたっている管理栄養士ではないでしょうか?

この問題は,実際に学会にも多数の質問が寄せられているのでしょう. 5月に開催予定の 第64回 日本糖尿病学会 年次学術集会では,異例にも同じテーマで 2つのシンポジウムが行われます.

  • 公募企画2 改定された食事療法ガイドラインの実践における課題
  • シンポジウム8 これからの糖尿病食事療法における課題と展望

件名は少し工夫していますが,どちらも 『糖尿病診療ガイドライン 2019』で打ち出された『食事療法の個別化』に 具体的にどう取り組めばいいのか,という討論会です.

では クリニックでは 今 どうしているのでしょう?

10年以上前に,私が産業医から『このままだと糖尿病まっしぐらだぞ!』と脅かされた時に,うろたえて あちこちの病院・クリニックで どんな食事療法・栄養指導が行われているのか調べたことがありました. 当然のことながらその時は どの病院でも食品交換表に基づいた『1,600kcal 炭水化物=60%』[男性の場合]の『糖尿病標準食』でした.

では,学会が新方針を打ち出して1年半たった現在では,どうなっているのでしょうか,それを調べてみました.

調査方法

調査は,『糖尿病』『栄養指導』というキーワードだけで,ネット検索にかかってきた クリニックのみ,つまり大学病院や大病院は除外しています.ランダムに50のクリニックを選び,各クリニックのホームページを見て,

  • 栄養指導をうたっているか
  • その栄養指導の内容・方法を表示しているか
  • そのクリニックに特徴的なことが書いてあるか

をまとめたものです.

調査結果
No.栄養指導の内容特記事項
1不明/個別に指導蛋白質→野菜→最後に炭水化物の食べ順を推奨
2食品交換表
3糖質制限
4食品交換表『糖質摂取量は個別に調整する』
5不明/個別に指導
6不明/個別に指導CGMを活用している
7不明/個別に指導料理教室を行っている
8不明/個別に指導
9食品交換表
10不明/個別に指導
11不明/個別に指導
12食品交換表
13不明/個別に指導
14不明/個別に指導食事例の写真では食品交換表?
15不明/個別に指導
16不明/個別に指導
17不明/個別に指導Q&Aに『糖質は体に必要な栄養素です。適切な量をとる必要があります。』
18不明/個別に指導食べ順療法が主体
19不明/個別に指導『食事指導は栄養士ではなく,院長が直接行う』
20不明/個別に指導
21緩やかな糖質制限
22不明/個別に指導
23不明/個別に指導解説で『とんかつは高カロリーですが,ざるそばの方がはるかに血糖値が高くなります』
24不明/個別に指導
25不明/個別に指導
26不明/個別に指導『投薬は最小限』『玄米だから安心とは限らない』
27食品交換表『PFCのバランスに偏りがないか』『指示エネルギーを守っているか』
28不明/個別に指導『リブレで摂取糖質量を把握する』
29不明/個別に指導『マスメディアからの情報は玉石混交『カーボカウントも提唱』
30不明/個別に指導リブレを導入している
31不明/個別に指導早期インスリン療法も行う
32不明/個別に指導
33不明/個別に指導
34不明/個別に指導
35食品交換表ただし簡易法も指導する
36食品交換表糖尿病=過食・運動不足による肥満と断定
37食品交換表BMI=22をめざすカロリー制限食
38不明/個別に指導栄養指導結果を学会報告
39不明/個別に指導食事例の写真では食品交換表?
40不明/個別に指導
41不明/個別に指導
42食品交換表
43不明/個別に指導『過剰な糖質制限は栄養バランスを悪くし別の不調や病気を引き起こしかねません』
44不明/個別に指導
45不明/個別に指導
464種類から選択(1) 食品交換表/(2)糖質漸減法(当院独自の指導法)/(3)緩やかな糖質制限[希望者のみ ただし推奨しない](4)カーボカウント
47不明/個別に指導
48不明/個別に指導『同じエネルギー量内で 毎食ずつ糖質量を同量にすることで 糖質量の摂り過ぎをなくす』
49不明/個別に指導リブレを活用している
50不明/個別に指導『高齢者はむしろ蛋白質・脂質不足に注意すべき』

さすがに 昔のように『一律・機械的に食品交換表でカロリー制限食』ではなくなってきているようです.

次回はこのデータを分析してみます.

[2]に続く

コメント

  1. よっしー より:

    『玄米だから安心とは限らない』という記述があったのですね、私も糖尿病と診断される前15年ほど玄米食(1回に食べる量は110~150gほど、カレーライスのときはお代わりしましたが)でしたが結局遺伝には勝てず発症したので、それを分かってくれる医師がいるだけでも救われる思いです。

    先日はある医療ニュースサイトで医師の方が「血糖値を直接上げるのは糖質だけなので、妊娠糖尿病の妊婦さんは糖質を控えめにしてタンパク質や脂質を多めに食べましょう」というようなことを書かれていました。別に糖質制限を推奨している医師ではありません。とうとうここまで来たかと思いましたが、全体的にはまだまだのようですね。

    • しらねのぞるば より:

      たった50軒だけですが,今回調べたクリニックの中には 「食品交換表に基づく栄養指導」をうたっていても,『糖質量は個別に調整する』(No.4)などと言わざるをえなくなっています.

      また「食べ順療法」を推奨しているクリニックもありますが(No.1, No.18),これも患者がリブレで調べてみれば,本当にそれで十分な効果が出せるのかどうかが すぐに分かってしまいます.

      10年前からみれば,いい時代になってきたものです.