『2型糖尿病』は存在しない[6]高品質のデータ

高品質のデータ

日本は先進国の中でも医療水準は高いと言われます. たしかにそうでしょう. しかも国民皆保険制度のおかげで,非常に高度・高価な治療法であっても,保険が適用されます.こんな国は世界で日本だけです(*)

(*)英国では,誰でも大病院にかかれるわけではありません.あらかじめ指定された『家庭医』つまり日本でいう『かかりつけ医』の診断を受けて,その必要があると認められた場合にのみ,大病院に紹介されます(公的保健医療制度 = National Health Service : NHS). 米国では 国民皆保険制度がありません.オバマケアで無保険者は減りましたが,それでも自己負担を嫌って加入しない人もいます.

しかしながら,こと『医学研究に欠かせない医療データの品質』となると,日本は後進国です.ほぼすべての医療データは,健康保険のレセプト(診療費請求明細)を除いて,まったくIT化されていません.デジタル庁の発足により,これから取り掛かろうとしている段階です.

ところが,世界には医療データのIT化が進展している国が多数あります.Ahlqvist博士のスウェーデンは.その中でも世界の最先端です.

スウェーデンの医療データは非常に『高品質』です.
ここで言う『品質』とは,その『正確さ』だけでなく,『データに偏りがない』『長期追跡が可能』ということも意味します.

正確な医療データが存在する

日本では,たとえば『佐藤太郎』さんが かつてどの病院にかかったことがあるのか完全に調べるのは事実上不可能です.
日本では,患者には病院ごとにそれぞれバラバラに患者番号(カルテ番号)をつけているからです. しかも,同姓同名の『佐藤太郎』さんは当然いるので,いちいち患者記録から健康保険証番号を調べて同じかどうかを照合しなければなりません. しかし.この場合でも『佐藤太郎』さんが,公務員から民間企業に転職していたら,保険証自体が共済組合から組合健保に変わっているので『別人』になってしまいます.

しかし スウェーデンでは,国民が病院にかかる際に,国民背番号で登録されます.しかもすべてのカルテは一元的に電子化されているので,『佐藤太郎』さんに限らず,すべてのスウェーデン国民は,その国民背番号を打ち込めば,一瞬にして,生まれてから現在までの 病院履歴がわかります. もちろん 医学研究に使われる場合は,(全く違う別の番号に付け替えられて)国民背番号は匿名化されるので,個人情報は秘匿されます.

長期の追跡が可能

糖尿病の病態・症状と,将来その人がいつどんな合併症を発生するのかという関連性を調べるには,患者を長期間追跡する必要があります.

DCCT試験ACCORD試験でも見たように これは一応 臨床試験でも可能です.実際欧米の大規模試験では10万人を超える患者データを集めます.

しかし,臨床試験とは 期限付きの計画に基づいて,参加者を募集,本人同意を得て行うものです.

よって試験期間が過ぎれば 一旦その観察は終了します.もちろん本人同意を得てフォローアップという形でさらに観察を続けることは可能ですが,これにすべての被験者が応じる義務はありません. したがって,フォローアップで観察される人は,『その実験計画に積極的に協力する意思のある人だけ』というバイアス(偏向)がかかってしまいます. 義務でもないフォローアップに応じてやろうという人なのですから,,健康への関心が高いのでしょう. つまりそういう人だけに偏ったデータになってしまいます.逆にフォローアップに応じてくれなかった人がその後どうなったか,知るすべはありません.だからどうしても 無作為に集めた集団にはなりません.

その点,スウェーデンでは正当な理由があり,監督機関が承認すれば,医療データは,患者本人の同意がなくても入手できるのでます(もちろん個人情報は匿名化されて) このことは 偏りや漏れのない長期追跡データが得られることを意味します.

これをプライバシー侵害と受け止める人もいるでしょう.しかし,医療データが完備されていれば,結局それは 医療の進展に寄与し国民全体の利益なので,結局 得をするのは個人でしょう.

以上のことからスウェーデンの医療データにアクセスできるAhlqvist博士は,非常にめぐまれていたのです.

[7]に続く

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