インスリン分泌の『なぜ?』を考える6

正規化してみましょう

前回の記事で,納先生のHP に掲載されている ボランティアの方々の糖負荷試験における 血糖値とインスリンの動きは,文字通り十人十色,二つと同じものはないということがよくわかりました.

ただし 血糖値の高低/インスリン分泌の多少という数値の差は大きいのですが,グラフのパターンを見ると,形だけは 似通ったものがあります.

そこで,各人の血糖値・インスリンの最大値を100,その最小値をゼロとして,すべてのグラフが 0~100に収まるように正規化してみました.
たとえば, No.13の40代男性の場合では 下図の通りなので,

これを正規化したグラフはこうなります.

全員の正規化グラフです

こう見てみると,完全にバラバラと見えたものも,実はいくつかのグループに分類できそうです.

[7]に続く

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    記事とは違う観点から納 光弘先生の26人のデータを見てみました。

    インスリン分泌の時間経過に注目すると

    (1)血糖上昇と共にインスリン分泌が増える。
    (2)ピークを過ぎて血糖値が下がり始めるとインスリン分泌も少なくなる。

    タイムラグはあれど、大体そうなっています。当たり前の現象です。

    (3)さらに下がってベースを下回るくらいまで下がると今度は血糖値を上げるべく、インスリン分泌は少なくなる。
    (4)そしてもう少し上がると(80~90)、今度はインスリン分泌がほんの少しではあるものの増加して血糖値を下げようとしている。

    このように見えるのですが、そこで(4)付近に注目してみると人体の恒常性維持は血糖値をいくらに落ち着けようとしているかが見えてくるのではないかと考えました。

    26名分の内、明確にインスリン値の底が捉えられていない10,20,26を除いた23名のインスリン量が最低値(第1回目の底)となる血糖値を平均すると81mg/dLになります。
    血糖値を「一旦は」この値に落ち着けようとしてインスリンが分泌が調整されているように見えます。
    その後、いくらになるか、どんなファクターが働くのかわかりませんが、時間と共にベース血糖値に戻っていくのでしょう。

    バーンスタイン医師は、自著「糖尿病の解決」で健常者の血糖値は83mg/dLだと記し、糖尿病患者もそれを目指すべきだと述べています。
    偶然かもしれませんが、前述の計算でも81とほぼ同じ値になりました。バーンスタイン医師は83以上でも以下でもなく83だと言い切っています。
    「糖尿病の解決」を読んだときには83の意味がよく分からず、単なる健常者の平均値(平均血糖値)くらいの意味に捉えていましたが、これは人体のホメオスタシスによって維持されるべき血糖値だったのだと理解した次第です。

    個人差はあるものの体温が36.5度に保たれるように、血糖値もホメオスタシスによって、それほど厳密に維持されるものなのだと改めて感じたのですが、糖尿病の病態が全く異なるアメリカ人も日本人も同じ83前後に維持すべく働いている人体の不思議です。

    インスリン値の 直前→[最低]→直後 とその血糖値です。
    インスリンが最低値の時の血糖値を平均すると[81]になります。

    ───────────────────────────
     ベース血糖値   血糖値      インスリン値
    ───────────────────────────
    No 1  119  85 → [87] → 89  3.5 → [2.7] → 4.8
    No 2  105  73 → [90] → 90  3.7 → [3.1] → 3.6
    No 3  108  75 → [86] → 89  2.8 → [1.6] → 2.4
    No 4  107  70 → [82] → 88  2.0 → [1.8] → 2.3
    No 5  110  78 → [85] → 93  5.0 → [2.9] → 4.0
    No 6  104  74 → [79] → 90  6.7 → [5.2] → 5.6
    No 7   93  86 → [91] → 94  4.4 → [4.3] → 7.1
    No 8   96  79 → [85] → 86  2.7 → [2.6] → 3.0
    No 9  112  74 → [87] → 95  4.1 → [3.2] → 3.3
    No11   95  80 → [82] → 87  0.8 → [0.3] → 1.4
    No12   99  83 → [79] → 82  3.2 → [2.0] → 4.1
    No13   95  66 → [76] → 86  2.9 → [1.4] → 1.8
    No14   98  85 → [89] → 94  2.9 → [2.8] → 3.0
    No15  104  80 → [96] → 97  7.8 → [5.6] → 8.2
    No16   86  80 → [68] → 81  5.3 → [1.2] → 7.4
    No17   92  85 → [85] → 89  1.9 → [1.1] → 2.1
    No18   89  70 → [77] → 88  3.4 → [2.9] → 3.7
    No19   85  77 → [79] → 82  2.7 → [2.5] → 2.8
    No21  112  67 → [86] → 88  4.3 → [3.8] → 3.9
    No22   84  70 → [76] → 79  1.9 → [1.8] → 2.6
    No23   83  80 → [59] → 73  8.9 → [4.9] → 5.0
    No24   98  72 → [87] → 87  3.4 → [2.7] → 4.7
    No25   81  72 → [62] → 67  1.4 → [0.8] → 1.1
    ───────────────────────────
    平均値  98  77 → [81] → 87  3.7 → [2.7] → 3.8
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    • しらねのぞるば より:

      糖負荷試験というものは,本来 人間が経験してきた自然界では ありえないほどの純粋なブドウ糖を多量かつ瞬間的に体内に注入することなので,システムとしてみた場合の人体の応答系を越えた急峻な変化でしょう.
      したがって,それには直ちに応答できないはず. これが私の書いてきた『活性化エネルギーが必要な状態遷移』の意味です. 応答限界を超えた状態変化なので,そこには Overshoot が起こり,その後に Dampingによる振動が発生する. これが血糖値が下がっているのにインスリンが出続けている現象だと思います. しかもそのリバウンドは,信号のRingingがそうであるように,1回では収まらず,減衰しながら何度も起こる場合もある….おおよそこういう仮説をたてて データのパターン分析を行っていこうと思っています.