学会の『風向き』
素人にもかかわらず,日本糖尿病学会などに 毎年参加するようになって気づいたことがあります.
それは学会というものは,1回だけ参加しただけでは(もちろん それはそれで意義があるのですが),『流れ』はつかみにくいということです.
何度も参加していると,『あれ? この名前のテーマは 3年前にもあったけど,また同じことをやるのかな?』と思うことがあります.
ところが,実際に参加して,前回のメモなどを参考にして比較すると,『ほほう,前はこう言っていたことを,今回はこう変えたのか』とわかります. 学会にとっては 嫌なタイプでしょうね.
また,以前はまるで話題にならなかったようなテーマが,学会で立て続けにシンポジウムやディベートとして取り上げられようになることもあります.なぜ急にそうなったのか,その背景まで考えると 『そうか,学会が方向転換しようとしているのだな』と気づくこともあります.
今まで 無風だったのに 突然
1993年に食品交換表 第5版が発行され,さらに 2002年にその改訂6版が出された頃の日本糖尿病学会の資料を見ると,食事療法に関する話題はほとんどみられません. 患者や医師・栄養士向けにガイドブックなどは発行されていますが,それは『食品交換表』の内容や使い方を説明するものです. つまり,この時期 学会としては,食事療法の内容そのものを議論のテーマとする必要を感じていなかったということでしょう.
ところが ACCORDショックが発生すると,にわかに学会はあわただしくなります.ACCORDの衝撃的な研究結果が発表された2008年以降,突然 食事療法が頻繁に取り上げられるようになりました.それは下記の年表から明らかです.青い●は,食事療法をテーマとしたものです.
2006,2007年の●は,学会での教育講演,つまり 糖尿病専門医,あるいは 専門医をめざす一般内科医向けに,糖尿病の基本知識を授業のように講演するものです. したがって,討議・討論の場ではありません.
しかし2008年以降は,シンポジウムのメインテーマとして取り上げられることが多くなりました. 件数も急増したことが上の年表からもわかります.
食事療法をテーマとして,いったい何が始まったのでしょうか? それは下の表にあげた,各年度での 講演題名 一覧を見れば明らかです.
なお,この表では,『教育講演』のように演者が一方的に聴衆に話すものを【講演】,そうではなくて,「シンポジウム」「パネルディスカッション」「ディベート」など,講演も行われるが,その後 討議が行われるものを 一括して【討論】と分類しています.
赤字で示したように,『カーボカウント』『低炭水化物』『糖質』『糖質制限』をキーワードにした講演・討論が,5年間に 8回も行われています.
また緑字で示した『課題』という言葉は3回も登場しています.
これは不思議なことです. なぜなら,食品交換表の第5版・第6版で定めたのは『理想の健康食』であったはずなのに,どうして今さら食事療法とカーボカウント,低糖質食との関係を議論しなければいけないのでしょうか? また食品交換表で完成された糖尿病食に,いったいどんな『課題』が発生したというのでしょうか?
この一覧を見るだけでも おわかりいただけると思います. 学会内部でも,食品交換表は今のままでいいのか,カーボカウントや低炭水化物食の考えを取り入れるべきだという声が上がってきたのです. しかもそれは 1回の討論で決着しなかったのです.だからこそ,何回も同じような件名で討論を行わねばならなかったのです.
次回では,そこでどんな討論が行われたのか,その中身を振り返ってみます.
[33]に続く
コメント