食事の脂質と食後血糖値[4]考察1

ここまでで,英国 Karen Cunningham教授(Cambridge大学;当時)の論文内容を紹介してきました.その方法は,前記事の通り,コンソメスープとマッシュポテトだけという,これ以上単純化しようのない食事を20代の健康な男性に食べてもらって,その胃からの排出時間・血糖値・インスリンを測定したものです.

そして,コンソメスープ又はマッシュポテトのどちらかに脂質(マーガリン)を混ぜた場合も同じように測定しています.このマーガリンの量がまた 60gという豪快なもので,普通はコンソメやポテトに混ぜるにしては多すぎる量です.しかし この論文は料理教室ではないのです. 食事に対する脂質の影響を 疑いの余地なく確かめようとしているのですから,これくらいの割り切りは当然です.

【1】 基本状態は

まず 脂質の効果を考察する前に,比較対称群として行われている,脂質を全く入れていないケースを見てみます, 原文のグラフからノギスでグラフの値を読み取って,作り直したものがこちらです.

血糖値(青)とインスリン(茶)の挙動が,タイミングがズレたりせずに きれいに対応していることがわかります. 健康な20代の男性なので,当然と言えば当然ですが,本来こうあるべきなのですね.

灰色点線は,胃からマッシュポテトが出ていくまでの残留量を放射線トレースしたものですが,食後1時間でもまだ50%ほどが胃に滞留していることがわかります. 完全に胃が空っぽになるのはほぼ3時間かかっており,つまりはそれだけゆっくりとデンプンの塊であるマッシュポテトが十二指腸に送られていったことがわかります.ですので,血糖値の上昇やインスリンの所要量もかなり少なくてすんでいるのでしょう.

日本人のデータと比較

このデータに対応する日本人の例を探したのですが,こんな単純なことなのに見当たりませんでした. まあこういうことを調べようとしても,それなりに金はかかるのですが,スポンサーがつかないのでしょう.

そこで,我々 糖尿病患者のバイブルである,鹿児島大学 納先生のHP がここでも参考になります. 20代の男性2名の糖負荷試験を5時間まで追跡した実例(No.6, No.7)がありました.

ただし,Cunningham論文では,乾燥マッシュポテトを68.3g使った とありますから,糖質量は(日本食品標準成分表によれば)糖質量は46gほどです.これがゆっくりと十二指腸に流れ出ていったのに対して,こちらは糖負荷試験ですから,75gのブドウ糖が,ほぼ瞬間的と言っていいほど消化管に流し込まれています. したがって,血糖値上昇が急峻であったり,インスリンが緊急応答的に大量分泌されているのも当然です.また どちらも180分あたりから血糖値が上がっていますが,これはインスリンが出すぎて150分で低血糖を起こしたため,グルカゴンが補償的に分泌されたものと推定されます.出番のなくなったインスリンも 最低量に抑えられています.

しかし,そうした相違点にもかかわらず,以上3つのグラフにおいて,

正常な若者では,『血糖値ピークとインスリン ピークとがズレずに ピッタリと対応する』は日本でも英国でも共通しています.

ここを踏まえたうえで,この正常な応答を示す若者が脂質を含む食事を食べると 何が起こっているのかを次回から考察します.

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