メトホルミンの『飲み合わせ』
前回記事で紹介したこの論文は,OCT1の遺伝的特徴と副作用発生率の関係を調べたものでした.
そうであるとすると,「OCT1に影響することが知られている薬は大丈夫なのか?」ということになります.
実はOCT1の機能を阻害する薬は結構あるのです.
そこで それらの薬について,その服用者がどれくらいメトホルミン副作用発生のリスクがあるかを調べたところ;
(※) 日本では未発売
●がリスクの推定平均値で,そこから両側に伸びるヒゲが95%信頼限界です.
真の平均値は,95%の確率で このヒゲの範囲のどこかにあることを意味します. したがって ヒゲの左端が真ん中の縦の線(リスク=1) から離れているほど,有意にリスクが高い(赤丸で示しました)ことを示しています.
リスクの大きさが最下部の水平軸目盛ですが,目盛りが対数であることに注意してください.
この結果を見ると,ほとんどの薬はリスクが1付近(つまり 飲んでいない場合と比べてリスクは同じ)ですが,赤丸の薬は メトホルミンの副作用を起こしやすいと言えます.特に コデインは,市販の風邪薬に含まれていることもあるので注意が必要です(風邪薬を長期間連続して服用することはないでしょうが). さらに不整脈治療にベラパミル,胃潰瘍治療にプロトンポンプ阻害薬を処方されている人が,同時にメトホルミンを服用することも副作用を助長する可能性があります.前回の記事と併せて考えると,遺伝的素質でメトホルミンの副作用が出やすい人が たまたまこれらの薬を服用していた場合には.かなりの確率でメトホルミンの副作用に苦しめられることになりそうです.もし慢性的に腹部症状に悩まされているのなら,メトホルミンを他の薬に変更することも主治医に相談してみてはいかがでしょうか.
思えば遠くへ来たもんだ
発端は,『メトホルミンをのんでいる糖尿病患者がPET検査を受けると とんでもない画像になる』という,この写真でした.
その時は,「あはは,面白い」だけだったのですが,ふと「では メトホルミンはここで何をしているんだろう?」と思ったことから,どんどん疑問が深まっていきました. 最初は 地面を掘り返している段階でしたが,掘れば掘るほど次々と鉱脈が見つかるので, 1か月に及ぶ 長期シリーズになってしまいました. しかも それでもなお 積み残した疑問は たくさんあります.そのあたりは,別館ブログにでも書くかもしれませんが,とりあえず『腸とメトホルミン』は今回をもって 一区切りとします.
【腸とメトホルミン 完】
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