腸には メトホルミン[3]

メトホルミンを服用している糖尿病患者が,PET/CTで癌検査を受けると,癌ではないのに腸の表面に沿って造影剤の18F-FDGが密集することが発見されました.糖尿病患者であっても,メトホルミンをのんでいない人にはこのような現象はみられないので,この現象の原因はメトホルミンであることは間違いありません.

Nuclear Medicine and Molecular Imaging

18F-FDG は経口投与ではなく静脈に注射したのに,腸だけに集まった理由を調べるために,その現象が起こっている人の腸の表面細胞を内視鏡で採取したところ,たしかに細胞にはメトホルミンが,それも血中濃度の30~300倍という高濃度で存在していることがわかりました.

メトホルミンが腸に存在するのは

実はそれ自体は さほど不思議なことではないのです.
たしかに病院の教育入院の講習などで,あるいは 糖尿病薬の解説書などを見れば,メトホルミンの働きはこのような図で説明されることが多いでしょう.

服用されたメトホルミンは小腸で吸収され,主に肝臓で糖新生を抑制し,一部は血管から全身に循環して筋肉などの臓器の糖取り込みを促進してインスリン抵抗性を改善します. 通常服用されたメトホルミンは,2~4時間後に血中濃度が最大になり,約8時間後に 代謝されず化学的構造を保ったまま腎臓から尿中に排泄されます.

この説明は間違いではありませんが,重要なことを書き落としています.実際はこうなのです.

服用したメトホルミンは,そのすべてが血管に吸収されるわけではないのです.それどころか,約50%は吸収されずに,そのまま腸を通り抜けて,最終的には便と一緒に排泄されているのです.薬学の専門書などでは,

メトホルミンのバイオアベイラビリティ( = BioAvailability)は50%程度である

としっかり書かれています. 『バイオアベイラビリティ』=『生体利用率』という言葉に騙されて,『メトホルミンを500mg服用しても,実際に役立っているのは 半分の250mgだ』と思っている人は医者にも多いでしょう.

メトホルミンの小腸での吸収率は低く,半分以上が腸を通過してしまうこと自体は,古くからマウスの実験などでよく知られていました.ですからメトホルミンが小腸下部や大腸に見出されても,そのこと自体は不思議ではないのです.

しかし,それをバイオアベイラビリティと名付けたことからもわかるように,2つの重要なことを今まで見落としていたのです.

  • 第一に,腸のメトホルミンは,血管に吸収された場合と異なり,排泄されるまで8時間ではなく最大2日間もかけて腸壁内をジワリジワリと移動していく
  • 第二に,腸のメトホルミンは,腸壁付近の血管の血液から糖を取り込んでいる

誰も想像していなかったこの2つのことが見落とされていたわけです.

ゆっくりと動くメトホルミンなら

日本でのメトホルミンの典型的な処方は 250mg(又は500mg)錠を1日3回 食前又は食後 です. 血管に回ったメトホルミンは,ほぼ8時間後にすべて尿中に排泄されますが,腸管壁にへばりついたメトホルミンは牛歩戦術です. 体外に出るまでに2日かかるのです. そこへ 1日3回 更にメトホルミンが次々と服用されていくとどうなるでしょうか? そうです!

腸壁にメトホルミンが どんどん蓄積していくのです

もちろん無限に蓄積されるのではなく,ある量で飽和に達するでしょうが,その飽和量こそが『血中濃度の30~300倍』だったのです.
そして;

腸壁のメトホルミンが糖を取り込めば

当然血糖値を下げる方向です. しかし無限に糖を取り込めるわけもありません. 取り込んだ糖を,メトホルミンはどう処分しているのでしょうか?

[4]に続く

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