前回記事は,健常者92人にフリースタイル リブレPro[医療用]を装着してもらい,2週間にわたり 血糖値パターンと生活習慣・特定食品との関係を調べたものでした.
それに対して,罹患履歴が長く 血糖コントロールが悪化している糖尿病患者での症例も報告されていました.
症例2[P-258]フリースタイル リブレプロによるAGPを活用した栄養食事指導について [国立病院機構福岡東医療センター]
国立福岡病院に通院中の糖尿病患者で,食事改善が思わしくないと管理栄養士が判断した2人の患者にフリースタイル リブレProを装着してもらった症例の報告です.
60歳男性の症例
(C) still さん
これまでの経過
- 60歳男性.170cm/93.7kg(BMI=32.4)の高度肥満.
- 20台に糖尿病を指摘されるも放置して悪化.
- 56歳で壊疽により右下肢切断.
- SGLT2阻害薬/GLP-1製剤/メトホルミン/インスリン投薬でもHbA1c悪化
リブレPro装着でわかったこと
- AGPを見ると,1日を通じて血糖値150mg/dlを下回ることがない
- 日中の血糖値は常に250~300mg/dl → 申告通りの食事ならありえない
- 食事申告は明らかに過少.同居する家族も糖尿病に理解不足と判明
栄養指導
ご飯,コロッケなどは 血糖値を上げることを指導.特にご飯は必ず計量して1日の上限を指示.
結果
8.5~10.0で推移していたHbA1cが半年後7.4~6.4%にまで低下.
70歳女性の症例
これまでの経過
- 70歳女性. 156cm, 57.3kg (BMI=23.5)
- 30歳時に妊娠中糖尿病指摘 → 食事療法をDrop Out
- 42歳 教育入院 投薬
- 48歳 インスリン開始
- 現在 超速効インスリン(アピドラ 12U/朝,10U/昼・夕)+持効型インスリン(デグルデク 35U/眠前)+メトホルミン+SGLT2阻害薬
リブレPro装着でわかったこと
- 朝方 及び 不定期に低血糖
- 食後・食間に~160の高血糖
- 夏期に食欲不振で食事はお茶漬け,水分代わりに西瓜を過食
- 炭水化物と血糖の関係を認識していない(介入時は 炭水化物 71%の食事)
栄養指導と結果
主食をしっかり食べる(=果物で代用しない)/野菜・おかずを食べる/果物の過食をしないなどを指導.
栄養指導介入時のHbA1c=9.1%が,5か月目 8.5%,11か月目で7.4%.
感想
以下は,学会の報告内容ではなく,しらねのぞるばの感想です.
この2つの症例は,どちらもリブレProで血糖値の上昇グラフを突き付けられて初めて『炭水化物で血糖値が上がる』ことを患者が知った例です.
しかしいずれも糖尿病罹患歴が長いのですから,HbA1cがここまで悪化するまでに,病院は『炭水化物で血糖値が上がる』ことを知らせていなかったのでしょうか? あるいは医師はそう言っていたのかもしれないけれど,意味が理解できていなかったのでしょうか.
どちらもリブレProで血糖値変化のグラフを見せられてようやく納得しました. ただ両例とも,かなりの投薬量なのにこのHbA1cでは,今後 急速な改善は見込めないと思います.
そうであるとすれば,こんな便利でわかりやすいツールが使える時代になったのですから,糖尿病の標準治療も,すぐに投薬に走るのではなく,糖尿病治療の第一歩をリブレ装着から始めれば,症状が軽い内に本人も手が打てるのではないでしょうか.
[4]に続く
コメント
>初めて『炭水化物で血糖値が上がる』ことを患者が知った
主治医はいったい、何を指導していたのでしょう。
まぁ、血糖値が上がってもそれだけでは、痛くもかゆくもないわけですが、実際にはいろんな不調があるはずです。
これらは因果関係が不明確で医者にもわからない<私もそうでした。
そうなると、患者としては「まぁいいかー、何ともないし」となるし、医者もあまり強くは言えないっていうのが落ちですかね。
要するに糖尿病専門医の言う事を患者はまともに聞いていない(=信用していない)とも言えかもしれません。糖尿病に限らず、高血圧などの生活習慣病も同様ですが。
でも、そこを何とかするのが糖尿病専門医のプロとしての腕の見せ所だと思うのです。そんなことに燃える医師は、ほんの一握りでしょうけど。
>糖尿病治療の第一歩をリブレ装着から始めれば
私もそう思います。
少なくとも教育入院したら必ずリブレのデータを患者に突き付けて自覚させるとか、または、リブレを付けたら、まずは入院しなくても自宅で行動記録(食事と運動、睡眠くらい)をつけてもらえば良いのではないでしょうか。
自己申告には過少申告の問題が付きまといますが、自覚を促す目的なら、過少申告してもいいと思うのです。今どきは写真を残すこともできますし、過少申告した事は本人は分かってるわけで、過少申告で血糖値が上がれば、よりきつく指導されるので、患者には過少申告するメリットはなくなります。
私も毎食記録していますが、リブレなりSMBGの動かせない数値がある限り、過少申告すれば耐糖能が悪く出るし、過大申告すれば、糖質摂取量の目標値を越えてしまうし、結局できるだけ正確に記録しようと言う圧力が自然にかかってきます。
今現在でも多くの医師はリブレの連続データをそんなに見たことがないのではないかと思います。扱っていないクリニックもまだまだ多いでしょう。
まずは、多くの患者のリブレの連続データを医師が判断できる事からになると思いますが。<HbA1c7.0が目標値だとか言ってる医師には特に見てほしいです。
最近はさすがに見かけなくなりましたが,日本でMedtronicの連続血糖値測定器(間質液ブドウ糖濃度を観測するリブレではなくて,本当に血糖値を連続測定するものです)が使われ始めた頃には,「炭水化物で食後血糖値が予想外に大きく上昇した」などという表現が,学会報告で大真面目に出されておりました. つまり10年前くらいまでは,医師ですら 炭水化物による食後血糖値上昇は 知らなかったか,軽視していたようです. だから『糖質を減らせば血糖値が下がる』という主張を,『祈祷まがいの民間療法』と嘲笑ったのです.
そうですね。
Hb A1cをなんとか抑える事ができていると、医師は「よくできています」と。それこそ摂食障害かも知れないのに。血液検査で明らかな数値が出てから治療となりますね。まるで糖尿病型になるのを待っているかのように感じる事もあります。そうなってからでは遅いと思うのですが…。
ただこちらも、医師によって大きく違っていて、早めの段階で薬を処方する医師もいますね。
どちらがいいのかは分かりませんが。
次々と押し寄せる患者を診て『流していく』医師の立場からみればやむを得ないとしても,ある時点で HbA1cがまったく同じ2人の患者でも,その過去からの経緯 Trendまでさかのぼっていけば 今後も同じとは限らないと思うのですよね.
逆に患者の方だって 自分のことなのですから,健康管理データを保存して自分で考えるようにするという心構えは求められると思っています.
それと付け足しです。
知人がモニターでリブレを装着していました。甘党なうえ、普段も割と白米の多いお弁当を食べていましたが、「全然大丈夫」と言っていましたが、その後聞いてみると、「甘い具の入ったバラ寿司は、すごく上がった。200近くまで上がった。すぐに下がったけど」と。
>「すぐに下がったけど」
そこで逃げてはいけないですね.次からは「200までは上がらないようにしよう」と思ってほしいものです.