血糖値とHbA1cの測定精度[4]~厚労省で検討会議が

計量法では,『商取引に使われる秤(はかり)は,国家検定を受けたものしか使っては いけない』と定められています. では 病院で使われている血糖値などの検査器は,国が精度を検定しているのでしょうか?

厚労省:検体検査の精度管理等に関する検討会議

厚労省で 『検体検査の精度管理等に関する検討会議』という議論が 2017~2018年にかけて行われました.

元々は 口内粘膜のサンプルを送ると,そのDNAを検査して,『あなたはXX癌にかかる確率がX%』などと『DNA診断』をしてくれる業者がビジネスを開始したことがきっかけのようです.きちんとした医学的根拠も不明なのに,医師でもないものがそのような「診断行為」をしてもいいのか,また 悪質な業者であれば,高い費用を請求しておきながら本当にDNA解析をしているのかどうかわからない,何の保証もないではないか,と社会問題になったからです.たしかに,単なる『DNA占い』にすぎないものなのに,多くの人が不安にかられた現象でした.

ただ,その問題の検討過程で,「それなら,DNA診断に限らず,病院や医療検査機関で行われている 各種の検査の精度には,そもそも基準や規制があるのか?」と,いわば飛び火したのが,この検討会でした.

医療検査の精度管理

この記事で紹介しましたように,商店街の肉屋や魚屋の秤では,量目の誤魔化しができないように,国家検定を受けたものだけを使うように計量法で規制されています.

300gの牛肉が実際には290gであったとしたら,客としては腹立たしいですが,別に命にかかわるわけではありません. しかし,病院での検査値がいい加減であったら,それは問題です. したがって,この場合も国が一定の測定精度が保証される何らかの法規制を行っているはずだと思うのは当然でしょう

...と,こういう書き方をすれば もうお判りでしょう.そうです. 日本にはそういう法規制はないのです.

そもそも病院の検査と言っても

実は,患者が病院で血糖値やHbA1cを検査してもらった場合,実際には3つのパターンがあります.

  • 病院内検査
  • ブランチラボ検査
  • 検査専門業者による委託検査

「病院内検査」とは,主に大規模病院でみられるもので,病院内に検査室と検査職員がいて,病院内での患者から得た検査検体を自前で検査することです.

2番目の「ブランチラボ」は,患者には見分けがつきませんが,病院の中で,検査だけを請け負う専門業者が検査を行うことです.したがって,ブランチラボでは検査を行う人も,それを監督する管理者も病院の職員ではありません.あくまでも,病院から検査業者に検体を「送付」してもらい,業者は検査結果を「報告」するだけ,ただそのやりとりを病院の敷地内で行っているだけの関係です.

最後の「専門業者による委託検査」は,開業医に通院している方ならよくご存じでしょう. クリニックでは,患者から採血などを行いますが,クリニック内には検査機器は一切ありません. ただ1日に1~2回,検査専門業者がクーラーボックス持参で,検体サンプルを引き取り,後日検査結果をクリニックに通知してくれます.

誰が検査の精度を監視しているのか

そして,上記の3つの検査形式について,2018年3月現在の検査精度管理体制は下記の通りです.

『ブランチラボ、衛生検査所における精度の確保等に係る現行の基準』:厚労省
2017年11月20日 第2回検体検査の精度管理等に関する検討会 資料1より

検査専門業者には,検査体制や標準作業書の整備,および精度管理を行う義務が定められていますが,病院の中で行われる検査には(ブランチラボも含め)精度管理に関する法的義務はないのです(「精度管理に努めること」という努力義務のみ).

[5]に続く

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    経済活動に使用する計測機器には精度検定があり、生命に危険を及ぼす可能性のある検査機器には精度検定がない。
    こりゃ、命は金より軽いのですね(笑)

    そうなると、気になるのは血圧計や体温計等、ネット通販や電気屋でも販売している「医療機器」と病院で使用している同機能のものは精度的に差があるのかと言う事です。
    差があるとすれば、それはメーカーが歩留まりや検査にかける手間を省いた廉価版と言う事になるのでしょうか。

    最近は、血圧は病院では緊張して高く出てしまう傾向にあったりするので家庭血圧も重視する傾向にあると思いますが、この場合、正式には家庭でも上腕式の血圧計で計るべきですが、手首式のものとどれくらいの差があるのでしょうか。一応、どちらも管理医療機器(クラス2)だと思ますが、精度検定されれば、この辺のクラスも細分化されるかもしれないですね。

    • しらねのぞるば より:

      秤の性能の国家検定に相当する規制は,医療機器でも管理区分があり, PMDA(医薬品医療機器総合機構)で性能認証がされていますので,それで十分だと思います.
      ただ,いくら高性能の測定器であっても,ずさんな使い方をすれば,性能は発揮できません. そこで 機器本来の測定精度を出せているのか,すなわち精度管理に規制がないことが問題だと思っています.

      つまり,ハードではなくソフトの問題. 実は このシリーズは.米国の CLIA法の紹介をするつもりだけでした.ところがCLIA法に対応する日本の法規制を調べはじめたら,『え? 規制はないのかよ!』となったわけです.