ママ ビタミンが欲しいの

ママ 恋人が欲しいの
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作るか 貯めるか

人体では,生命の維持に必須の栄養素は,もしも不足したら命にかかわるため,自分の体内で作れる(=体内合成)ようになっているか,または 十分な量を貯めておく(=体内蓄積)ようになっています.

例外はビタミンCで,必須栄養素なのに,体内合成も体内蓄積もできません. 木の上の猿だったという進化の歴史から,ビタミンCだけは不足したことがなかったからでしょうか.

作れるものは作る

血液中のブドウ糖,つまり血糖も生命維持には必須です. 赤血球は,細胞核がないので,したがってミトコンドリアが存在しないため,ブドウ糖だけがエネルギー源です. よって まったく糖質を摂取していなくても,最低限必要な量だけは体内(肝臓)で作り出しています(糖新生).

作れなければ貯める

生命に必須なのだが,体内合成もできず,しかも豊富に摂取できないという成分は,普段からコツコツと体内に貯蓄する必要があります.
たとえば鉄分がそうで,赤血球には必須のミネラルです.鉄が不足すると貧血になってしまいます. しかし鉄ミネラルの吸収効率は非常に低いため,少しずつ貯めるしかありません.

ビタミンB12もまた,体内蓄積されます.ビタミンB12は必須微量ビタミンですが,体内合成できないだけでなく,入手も難しい成分です.これも食物から辛抱強く蓄積していくしかないのですが;

ビタミンB12は入手困難

ビタミンB12は,成人では1日 ~2μgの摂取が必要とされています. 子供でも 0.4~1.4μg/日です.具合の悪いことに,ビタミンB12は吸収効率も低く,一度に大量に摂取しても,ほとんどは吸収されず排泄されてしまいます.

ところで 厚労省の食品栄養 には 2094品目(調味料除く)もの食品が収載されていますが,食品100gあたりビタミンB12を 0.1μg以上含むものは,848品目しかありません.すべて動物性食品です.
ビタミンB12を含むのは 動物性食品だけなのです. 一部のシリアル加工食品にも含まれますが,これは栄養強化のために製造段階で添加したものです.

また動物性食品なら何でも多いというわけでもなく,低脂肪でヘルシーとしてもてはやされる鶏肉は,レバー以外はビタミンB12は少ないです. 逆に豊富に含むのは 魚・貝・豚肉・牛肉です.ビタミンB12は脂溶性なので,脂質の多い動物性食品に豊富に含まれます.

ビーガンはビタミンB12不足に注意

多くの成人は,通常 それまでの体内蓄積があるので,ある時点からビーガン食(完全菜食主義)を開始して,一切動物性食品を食べなくなっても,急にビタミンB12不足になることはありません. しかし,それが長期間続くと,貯金を使い果たすように,やがてビタミンB12不足に陥ります.

ところで,赤ちゃんは胎児の段階では胎盤経由で母親の血液に含まれるビタミンB12と,生まれてからは母乳中のビタミンB12だけが頼りです. 新生児はレバーの串カツは食べません.

この場合 悲惨なのは,厳格なビーガン食を信奉している母親が出産した場合です.長期にわたりビーガン食を続けている母親は,自分自身がビタミンB12不足気味なので,血液でも母乳でもビタミンB12濃度が低くなっています. 赤ちゃんは離乳食に含まれる ビタミンB12を吸収して 長い人生に備えて少しづつ体内蓄積を始めるしかないのですが,母親が厳格なビーガン主義者である場合,動物由来のものには すべて嫌悪感を示すので,赤ちゃんに動物性食品を与えません.結果,この新生児は 生まれながらにして,深刻なビタミンB12不足におちいってしまうのです.

J. Ped. Hemato. Vol.26(4) 270-271, 2004

生後6ヶ月の乳児の重度の巨赤芽球性貧血およびビタミンB12欠乏による神経障害の症例.
ビタミンB12欠乏の原因は、母親の厳格な菜食主義の食事により母体のビタミン欠乏,更にその状態で長期に母乳育児したことが原因である.妊娠中の母性ビタミンB12の極度の欠乏症を早期に認識することが重要である.

メトホルミンでも

なお,メトホルミンの長期大量服用も ビタミンB12の蓄積を枯渇させるおそれがあることが知られています. ただ2000mg/日以上の投与が珍しくない海外では問題となりますが,日本では ごく稀なようです.

メトホルミンの長期服用が続いている人は,ビタミンB12の豊富な食品を欠かさないことと,それが不足気味ならビタミンB12剤(メコバラミン)を少量服用した方がいいでしょう.

コメント

  1. highbloodglucose より:

    ちゃんと気をつけてるヴィーガンはビタミンB12が添加されたニュートリショナルイーストを摂取しているでしょうから問題ないんでしょうね。添加物を摂取することの是非はともかく、ですが。

    わたしはメトホルミンによるビタミンB12不足のことを知る前から、ビタミン・ミネラル補給のために鶏レバーを意識して摂るようになりました。なのでB12不足は大丈夫だと思うのですが、今度はビタミンAの過剰摂取が気になります。
    レバーとハツが3羽分入ったパック(全部で160〜180gくらいのパック)を買って、1週間に1度、3日くらいかけて食べているのですが、多すぎるのか迷ってます。ビタミンAが少ないのは牛レバー、鉄分が多いのは豚レバーみたいですが、わたしがよく行く小さなスーパーは鶏レバーしか売ってないんですよね、困ったことに…

    • しらねのぞるば より:

      ニュートリショナルイーストは,ネット販売の画面でしか見たことがないのですが,添加されているVB12は 安価なシアノコバラミンなのかな?シアノコバラミンが本当にVB12として働くのかどうかは疑問に思っています.

      鶏レバーからの VAは,それくらいなら大丈夫じゃないでしょうか.

  2. かかか より:

    糖新生として作るうえ、それでも尚且つ糖を貯める体、余計な事しなくていいのに…。と思ってしまいます。

    • しらねのぞるば より:

      多分 人体の本来の動作としては,食物由来の糖質は,一旦すべて肝臓が(グリコーゲンとして)貯めこんでしまい,必要に応じて糖新生を加減していたのではないだろうか,と思っています. だから,それ以外の血糖は(ちょうど尿糖のように)肝臓からあふれ出たものではないのかと思っています. このあたりそういう研究がないか,探しているところです.

      • 西村 典彦 より:

        摂取した糖がどうなるかについて先日、江部先生から下記の様に回答を頂きました。

        http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-5005.html
        >糖質摂食時には、消化管から吸収されたブドウ糖は、門脈血からまず肝臓に約50%取り込まれ、それ以外が血液の大循環に回ります。

        半分が肝臓に取り込まれ、あと半分はスルーして大循環に回るとのことですが、糖尿人はこの取り込みがもっと少ないらしいです。

        では、摂取量によってどうなるか、肝グリコーゲンが多い時と少ない時でどうなるか等、まだ、疑問はありますが、なかなかこの手の情報は見つかりません。

        • しらねのぞるば より:

          はい,そのやりとりは横から眺めておりました.

          動物実験ではなく,人間で 門脈から流れ込んできたブドウ糖がどうなるのか,ラベル化したブドウ糖で追跡した試験を探しているのですが,なかなか見つけられません.

          ただ,

          https://shiranenozorba.com/2019_06_20_thin-japanese-3/

          にも書きましたように,少なくとも戦前までの日本人は,一日中働きづめに働いて動き回った時点では,筋肉も肝臓もグリコーゲンはカラカラに使い果たしていたのではないのかと思っています.そういう状態下での,流入した糖質の流れは誰も調べていないと思います.

          私は糖質制限食を開始したら1か月もたたない内に 血中 中性脂肪が一挙に100mg/dl以上も低下しましたが,余剰糖質がないとはこうなのだな,とあらためて納得できました.