2型糖尿病って本当にあるのでしょうか? その4 の記事について, ブログ[高血糖な日々] のhighbloodglucose さんからもコメントをいただきました.
肥満度合 ∝ インスリン抵抗性 ではない
highbloodglucose さん;
クラスター3というのは、どう捉えればいいのでしょう。
最初は、クラスター4は皮下脂肪が優勢な巨漢タイプで、クラスター3は内臓脂肪が優勢なタイプかと思ったのですが、そうでもなさそうですね。
私もこの論文を読むまでは,BMI とインスリン抵抗性とは単純相関していると思っていました.太れば太るだけインスリン抵抗性が高まるのだろうと.ところが,Cluster3 重度インスリン抵抗性DMよりも,Cluster4 軽度肥満DMの方がむしろ平均BMIが高い,というのは驚きでした. この2つがはっきりと異なる群であると分離できたのは,スウェーデンの医療ITデータの充実のおかげだと思います. つまり,Ahlqvist論文では,単に現時点の検査データをスナップ写真として,つまり「点」としてのデータだけではなく[ここまでなら従来と変わらない],データベースから対象者全員の過去カルテ・現在の処方箋データまで含めて【★】Cluster分離に用いたのです.更に得られた分類を用いて,2つの別のBig Databaseに適用して結論が同じになるかどうかという妥当性まで検証しています.
【★】スウェーデンでは,開業医も含めて国民全員の電子カルテ記録が100%普及しており,しかもそれらがリンクされてデータベースに集約されるようになっています.個人識別番号付与は既に1947年から行われていますから,ある患者の疾病罹患・投薬履歴などは完全に追跡できるように(もちろん匿名化されて)なっています.ですからAhlqvist博士のこのような研究も可能なのです. さらに2010年からは,このビッグデータを活用して国民の健康増進・医療の最適化をめざすeHEALTH プロジェクトも進行中です.
日本もマイナンバーを普及させたいのなら,せめてこのように国民に役立つ施策とセットにすべきでしょう.最初に銀行口座へのマイナンバー登録義務付けから始めたのは,そもそも手順ミスです.『マイナンバーの目的は,財産税導入のための資産把握だ』と思われてしまったからです(実際そうでしょうが). 逆に,個人情報だプライバシーだと騒ぐのも,国民全体の利益が見えない愚かな行為だと思います.あ,話がそれましたね.暴論です,暴論.
Cluster 3 重度インスリン抵抗性糖尿病の特異性
肥満の糖尿病患者が2つのCluster(Cluster3と4)に分かれたのは,単に肥満度合だけではなくて,合併症履歴がまるで異なる2つの群が存在したことが要因です. 著作権の関係で,原論文の図をそのままコピペできないため,下図はそのスケッチですが;
注:Cluster5の軽度加齢性DMのデータは 点線で示しましたが,これはスタート時点で既に高齢(60歳以上)なので,その中の80歳代の人は経過年数と共に腎機能が低下していきますから(直線的に増加していることからもわかるように)これは老化現象を確認しているだけにすぎません.
Cluster 3:重度インスリン抵抗性DMの患者は,この通り 他のClusterとはかけ離れて腎障害の累積進行率が高いのです.この論文でAhlqvist博士が危機感を感じて 訴えたかったのはここでしょうね. これだけの違いがあるにもかかわらず,『太った糖尿病患者』でまとめられて,Cluster 4 軽度肥満DMの患者とほとんど同じ投薬しかなされていなかったからです.『指先の切り傷も 大動脈に達する外傷も,同じ切り傷なのだから包帯でも巻いておけ』というようなものだと. このデータを単純に患者のBMI別に集計していただけなら,Cluster 3のこの特徴は,Cluster4と平均化されてしまっていたでしょう.
同じ肥満糖尿病なのに なぜこれほど違うのか
highbloodglucose さん;
もともとインスリン抵抗性が大きい体質、ということなんでしょうか。
もともとの体質であるが故に、患者の努力だけでは改善が難しい、と。
はい,そこでAhlqvist論文では,Cluster3がこれほど他のClusterとかけ離れている原因を,遺伝子解析からもアプローチしていますが,群間で有意な関連性はみられませんでした. 但し 2型糖尿病にもっとも関連する遺伝子と言われている TCF7L2 は,たしかに Cluster2 Cluster4 Cluster5 で多かったのですが,逆にCluster 3ではもっとも少ないという意外な結果でした.このことから Cluster 3はたしかに特異な体質が関与している可能性はあり,従来のいわゆる2型糖尿病とは 全然かけ離れたまったく別の病気である可能性が高まりました.
日本人でも こうなのか
Ahlqvist博士は,この研究の Limitation(限界)についても付記しています.これは スウェーデンとフィンランド,つまり北欧の主として白人のデータだからです. よって 異なる人種でもこのような結果・分布になるかどうかは不明としています. 他の人種,特に 東アジア人種についても ぜひ調査してもらいたいものですが,その際には 冒頭に述べた,これほど質の高いデータベースが日本には存在しないことが障害になるでしょうね.
Ahlqvist論文は,いろいろなことを考えさせてくれました. 異論・反論もありますが,今後の糖尿病治療に大きく影響するでしょう(そう信じたい).
次の課題は ...難しい
この論文については,一応今回までとして,今後は我々日本人には もっとも多い,インスリン分泌の弱い糖尿病にはどう取り組めばいいのかを 考えていきたいと思います. すでにそういうコメントもいただいています.
だんだん 問題が難しくなってきそうですが.
コメント
比較的改善しやすいクラスター4と同様に扱われてしまった場合、
クラスター3では腎症が進んでしまう危険性が高いので、
患者としては自分がどちらのタイプなのか知りたいところですよね。
でも、今のところは
インスリン分泌大、インスリン抵抗性大であることしか
指標はないということのようですね。
なにかもっと、いいマーカーがあればいいのに…
とりあえず、尿アルブミン検査を定期的に受けることくらいしかないのでしょうか。
クラスター3が腎症になりやすいのは、インスリン抵抗性が大きすぎるせいなのか、それとも高インスリン血症が問題なのか、あるいは全くほかの原因(体質)が関与しているのかも気になるところです。
仮に高インスリン血症が問題なのであれば、血糖コントロールにインスリン製剤を使用するとさらに悪化させてしまうことになりそうです。
それにしても、これぞビッグデータの有効活用ですね。
日本も、おくすり手帳とか細々とした連携ではなく、
全医療機関の診療データ、検診データを一括して活用してもらいたいですね。
特に、検診データなどは各機関で手順を統一すれば、
今のような○○スタディといった個別集団の疫学調査ではなく、
全国規模の解析ができるのではないでしょうか。
そうですね.糖尿病履歴の長い人は,やはりアルブミン尿検査と眼科検診は定期的に行った方がいいでしょう. Cluster4に限りませんが,現在の治療ガイドランは,個別化医療という名目で 選択肢をただズラッと並べただけという代物. その割には 食事療法は 食品交換表で すべての患者を一律に扱う.運動療法に至っては,よく歩いてくださいねーだけですから,結局 患者は自分の主治医は自分だと腹をくくるしかないですね. 糖尿病専門ニセ医者をめざします.
しらねのぞるば様、コメントの返事ありがとうございます。
私はアメリカ在住です。海外からのコメントはブロックされているのかと思いますが、ブロックの解除は出来ないでしょうか?
最初、何度かコメントを送信しても403 fobidden errorが出る為、日本のIPアドレスを取得して送付しました。
中継サーバーを通っているので、安全面で不安がありアプリの削除を考えています。
今後、海外からのコメントも受け付けて頂ければ幸いです。
あめり 様;
申し訳ありません. レンタルサーバー会社にも相談してみましたが,やはりサーバー全体を危険にさらすことは ちょっと...というニュアンスでした. 本日の記事に書きましたように,問い合わせフォームでご意見をお寄せいただけるよう,早急に準備いたします.