Cluster分類からみえてくるもの
以下は, Ahlqvist 論文を読んで しらねのぞるばが考えたことに過ぎません. つまり原論文にはこんなことは書いてなかったので,そのつもりで読んで下さい.
Ahlqvist 博士が何の予断ももたずに,ただ病態を表す指標だけを用いて,13,000人の糖尿病患者を分類したら,5つのCluster(群)に分類されたわけですが,従来の1型糖尿病にほぼ等しい Cluster 1の SAID Severe Auto-Immune Diabetes; 重度自己免疫性糖尿病)を除けば,残りの4群は 従来2型糖尿病と呼ばれていたものです. 4つに分かれた理由は,各群の特徴が;
- インスリン分泌不全か, または インスリン抵抗性か
- その程度が 重度(Severe)か,軽度(Mild)か
という2分法に(結果として)よるものでした.
図に表すとこうなります
そこで,従来は『2型糖尿病』と荒っぽくひとまとめにされていたこれら4群を,インスリン分泌能/抵抗性をパラメーターとして,そして健常人からの「距離」を目安にして,管理人が勝手に図にプロットしてみました.[この図は原論文にはありません.あくまでも管理人の主観です]
Cluster5の加齢性糖尿病は,インスリン分泌能はほぼ正常域,インスリン抵抗性もなし,それなのにHbA1cが高めということで(それでも5群中もっとも平均値は低い),おそらく血糖値変動が大きいのだろうと想像してここにプロットしました.ただ見かけ上はよい指標の割には,腎機能低下,冠動脈疾患などの発症率が経年的にもっとも早く増加していくのは,糖尿病の合併症というよりはむしろ加齢に伴う不可避な現象なのでしょう.
この図を作ってみて,Ahlqvist 博士が何を言いたかったのかが理解できました. いくら何でもこれらを一つの病名で片づけてしまい『標準治療法』で治療するのは無理ではないかと.
ところで,この図を眺めていると,あることに気が付きます. Cluster 4の軽度肥満糖尿病にそっくりの糖尿病がもう一つあるからです.
そうです,妊娠糖尿病です. 妊娠糖尿病は,妊娠によって胎盤から分泌されるホルモンがインスリン拮抗性であり,このため妊婦にインスリン抵抗性が生じ,これを打ち消そうとインスリンの分泌が増大し,さらにそれが…の繰り返しで,インスリン抵抗性がやや打ち勝った状態です. 原因[病理]こそ違え,この状況[病態]は,Cluster 4の軽度肥満糖尿病と全く同じです.
糖尿病が『治る』ケースとは
もう一度上の図をご覧ください. インスリン分泌能が正常とほとんど変わらないのは,言い換えれば,健常者にもっとも近いのは,妊娠糖尿病とCluster4の軽度肥満糖尿病だけです.
妊娠糖尿病は,出産により『妊娠』という状態から脱却すれば,正常に戻ります. つまり『治ります』
とすれば,Cluster4の軽度肥満糖尿病も,減量により『肥満』という状態から脱却できれば,正常に戻るはずです. つまりこれも『治る』糖尿病なのです.『寛快』ではなく『完治』あるいは Reverseです.(もちろん妊娠糖尿病と同じく,将来の糖尿病リスクは残るでしょうが)
インスリン抵抗性の原因が肥満であるのなら,『肥満』という状態から脱却すればインスリン抵抗性は消失し,したがって糖尿病は『治ります』.これは妊娠糖尿病が可逆的であるのと全く同じです.
よく米国の糖尿病啓蒙WEBなどで,糖尿病を克服したという写真が出ていますが,目立つのは糖尿病を克服したというよりも,信じがたいほどの巨漢サイズから普通サイズへの減量に成功したということです
肥満から脱出する手段としてならば
筋トレといい,神秘的なほどの自然食といい,それらが肥満・過食・運動不足から逃れる手段としてうまく働いた場合[※],それを実行した人は,肥満から逃れることができて,ちょうど出産を終えた妊婦のように,肥満糖尿病が『治った』のでしょう.つまり妊娠糖尿病と同種の『治る』タイプの糖尿病だったから,『治った』のです. Ahlqvist 博士の新説は,『糖尿病は治せる!』『いや治らない!』の論争にケリをつけたものだと感じています.
[※]反感をかうことを承知で申しますと(『暴論』ですよ! お忘れなく),私も『自然食』を何度も試しました.まことにすばらしくおいしくありません.食欲が減退してすぐに満腹になります.たしかに減量手段(というか減食)手段としては最高です.
結論として Cluster4の肥満糖尿病であった人は,体力・インスリン分泌能も十分であったため,『治せた』のです.肥満を脱出したその意思と努力には敬意を払いますが,Cluster 4以外には通用するとは思えません.
さらに, Cluster4 の人の糖尿病が治ったのを見て,Cluster3 重度インスリン抵抗性の人が『あの人の通りにすればいいのだ』と信じてしまうと危険です. なにしろ見た目には 肥満度 だけでみればCluster 4の方が高いのですから,「あの状態からよくなるのだから,私も」と思っても無理はありません.
さて どうするか
さてそこで,Cluster2,3,5はどうすればいいのでしょうか. もちろん十分な治療は必要です.
Ahlqvist 博士は Cluster3については メトホルミンの大量投与が有効なはずとしており,それは確かでしょう.Cluster3は,何と言ってもインスリン分泌能は残っているのですから.
また Cluster5の加齢性糖尿病については,論文では博士はほとんど言及していませんが,老化の進行をくいとめる方法はないのですから,保存療法に徹するしかないということなのでしょう.
最後は 既にインスリン分泌能が減弱しているCluster2です. この記事までは一気呵成に流してきましたが,これについてはかなりの長考が必要そうです.皆様もぜひご意見をお寄せください.真っ向からの反対も歓迎です.
[その5 に続く]
コメント
博士の名前が難しいのですが((´・ω・`)
アールキユヴィストはかせで良いのでしょうか?
それはそれとして。
自分的のOGTT結果的にはCluster5になるのかな、と思います。
もしくはCluster2の中でも重篤性が低い方なのかな、と。
分泌、抵抗性で今回分類されてますけど、自分的にはインスリンの感受性ってあるんじゃないかなと思ってます。
つまり、2次元じゃなくて3次元なんじゃないかなーと。
自分的にはそこらへんが鍛えられる余地なのかなーと信じてやってます(`・ω・´)
お早うございます.
Ahlqvist博士ですが,スウェーデンではよくある苗字だそうで,アールクヴィストと発音するのだそうです.
今回作成した図は,一応 博士の分類を忠実に表すつもりでああなったのですが,実はあじふらいさんのケースはこの図では現しきれていないと思っております. 軸を下に(インスリン感受性として)伸ばして,左下象限に配置するのなかなとも.
考えがまとまったら記事にします. あじふらいさんの実測データは実に参考になります.
とても興味深いです。
2型糖尿病と一括りにしてしまうのは無理がありますよね。
分類するためには、やっぱりインスリン分泌能の検査が必要ですねー
図では理解しやすいように各クラスターがきれいに分かれて描かれているけれど、実際は各円の半径がもっと大きく、部分的に重なっているのではないかと思いました。
たとえば、インスリン分泌能が少し低下している、かつ、抵抗性が少しある、というようなタイプもかなりいそうです。
クラスター3というのは、どう捉えればいいのでしょう。
最初は、クラスター4は皮下脂肪が優勢な巨漢タイプで、クラスター3は内臓脂肪が優勢なタイプかと思ったのですが、そうでもなさそうですね。
もともとインスリン抵抗性が大きい体質、ということなんでしょうか。
もともとの体質であるが故に、患者の努力だけでは改善が難しい、と。
インスリン感受性というのは、わたしはインスリン抵抗性と同義だと思っていました。
つまり、抵抗性大=感受性低、抵抗性正常(なし)=感受性大である、と。
あじふらいさんの指摘は、そうではなくて、感受性と抵抗性は別次元のもの、だからグラフは3次元になるのではないか、ということですよね。
対して、しらねのぞるばさんの解釈は、抵抗性と感受性は同じ軸上で表されるもの、ということですね。
そして、わzたしはインスリン抵抗性は正常(ゼロ)が最低値だと思っているけれど、しらねのぞるばさんはマイナス値があるのかも、という認識ですね?
あじふらいさんはインスリン分泌能が少し低下しているにもかかわらず、かなりの耐糖能を示していることから、インスリン抵抗性が正常よりマイナス、つまり、インスリンに対してスーパーセンシティブなのではないか、と。
クラスター3の真逆タイプですね。
もしかしたら、第6のクラスターになり得るのかもしれませんね。
コメントありがとうございます.
highbloodglucose さんの指摘はいつも的を得ていますね.
私も そこのところは整理しきれていなかったので,明日の記事にてまとめてみようと思います.
>対して、しらねのぞるばさんの解釈は、抵抗性と感受性は同じ軸上で表されるもの、ということですね。
>そして、わzたしはインスリン抵抗性は正常(ゼロ)が最低値だと思っているけれど、しらねのぞるばさんはマイナス値があるのかも、という認識ですね?
これは 本日の記事で こうまとめてみましたが,いかがでしょうか?