食事療法の迷走[8]食品交換表 第2版から第4版まで

食品交換表 第2版

1965年に食品交換表 第1版が発行された4年後の1969年に 改訂第2版が発行されました.これ以降 定期的ではないものの,数年おきに改訂されて現在の第7版に至っています.

食品交換表 第2版 (1969)
(C) 日本糖尿病学会

第2版は,基本的には第1版の方針がそのまま踏襲されています.
主な変更点は次の通りです.

基本原則

第1版では3つの基本原則が掲げられていましたが,第2版では下記の2つだけになりました.

  • 適正なエネルギー(カロリー)
  • 栄養素のバランス

つまり,第1版の基本原則にあった,「糖質量の制限」がなくなっています.

ただし,第2版の解説文には;

「(推奨する)糖質の量は一般に普通の人に比べるとかなりの制限になりますが,これは適正なカロリーの範囲内において,蛋白質・糖質・脂質の適正な補給を行う結果です」
「糖質を特別に制限する学者もありますが,1日100g以上の糖質をとることは必要です」

食品交換表 第2版 解説より

とあるので,高糖質を薦めたわけでもなく,逆に100g/日未満の低糖質を薦めたわけでもないということです.基本的に第1版と同様に,糖質・脂質・蛋白質を(当時の基準で)バランスよく摂るべきであり,結果として,それでもなおこの時点での平均的な日本人の食事構成から比べると「糖質はかなりの制限になります」という意味です.

基礎食+付加食 という考え

必要な栄養素は最低限確保(基礎食)したうえで,それを前提に 残りは自由でよい(付加食)という考えです.

基礎食と付加

これは第1版でも解説文に書かれていましたが,まだ「付加食」という言葉までは使っていませんでした. 第2版でそれを より明確にしたわけです.

当時は成人の平均的な基礎代謝は1,200kcalと考えられていたので,この1,200kcal分については上記の栄養素バランス[蛋白質:~60g,脂質;~40g,糖質:~150g]で摂り,もしも医師の指示エネルギーが1,200kcalを上回っているのであれば,その差は付加食として自由にしてよいとしたのです.

付加食について,食品交換表 第2版はこう説明しています

基礎食の部分は食品交換表の同一表内で交換し付加食の部分はそれぞれの習慣・嗜好に応じて,表1~6を通して選択してよいのです. こうすれば栄養素の不足や偏りが起こらずに変化に富んだ食事を楽しむことができます

食品交換表 第2版 解説より

第1版の食品交換表は第8回日本糖尿病学会総会(会長 葛谷信貞;虎の門病院内分泌科部長)において発表されたのですが,後に 葛谷先生は 「基礎食」「付加食」について,こう述べています.

栄養素配分が広い範囲にかわっても,人はこれに適応する能力を持っており,ある一定の組成に従わねばならぬと云う必要性は必ずしも存在しない様である. 従来,1日の総カロリーと共に糖質・蛋白質・脂質の量を指定したのは,この点から見て,必ずしも合理的と云えないばかりか,患者の食事箋の作成を不必要に困難ならしめていたと云えると思う.食品交換表を用いる食餌療法でも1日の総カロリー全部を表1~6,附録表にわたって指示する必要はなく 図[略]の如く,所要のカロリーは基礎食+付加食とし,日々のメニュー作成に当っては,基礎食のみを食品交換表の同一表毎に交換させ,付加食は患者の習慣・嗜好・経済状態に応じて自由に選択させてよいと考える 食餌療法を少しでも困難ならしめる様な制限は,出来るだけ少なくすることが最も大切である

葛谷信貞:内科疾患における食餌療法の問題点
第64回 日本内科学会講演会 シンポジウム(1967年)

「基礎食」+「付加食」の組み合わせが,必要栄養素を満たしつつ,しかも患者にも自由度が与えられるので最善だとされていたことがわかります.

今の言葉で言えば;

個別化された食事療法

が既にこの時代にはあったのです.もちろん,昨年 日本糖尿病学会が「診療ガイドライン 2019」で提唱したものとは意味合いが違います.しかし

すべての人に『判で押したように全く同じ栄養素比率を押し付ける』のは不可能だ

という点では共通しています.共通ミニマムはあるものの,それ以上は人それぞれ違うのが当然だろうという考えだったのです.

食品交換表 第3~4版

1978年に出された 第3版,そして 1980年の第4版は,基本的に第2版と同じものです.

第3版では,食品素材だけではなく,外食料理についてもデータを補強したこと,また第4版では,基礎データである「三訂 日本食品標準成分表」のデータが改訂されたことに伴う数字の変更でした.

食品交換表 第3版 (1978)
(C) 日本糖尿病学会
食品交換表 第4版 (1980)
(C) 日本糖尿病学会

更に 1983年には 「第4版補」が発行されていますが,これはその名前の通り,第4版で採用していた「日本食品標準成分表」が 三訂 から 四訂 に改訂されたため,食品データを更新したものです.

食品交換表 第4版補 (1983)
(C) 日本糖尿病学会

以上 見てきた通り,食品交換表は最初の第1版(1965年)から,第4版補(1983年)まで,ほぼ一貫した内容で発行され,日本の栄養現場に広く普及していきました.

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