先月開催された第23回日本病態栄養学会での学術報告です.
極端な菜食主義でついに歩くこともできなくなった患者を,内科・外科・栄養科が総がかりで治療した例です.
P-121 完全菜食主義者に生じた重症貧血に対する栄養学的な介入 [千葉市立海浜病院]
患者の経緯
- 60歳女性,163cm,55kg (BMI=20.7)
- 30年前から動物性食品を食べなくなった
- 数年前からは,食物繊維が多いと感じるものも食べなくなった
- 現在は 米・麦・大豆・芋 及び 一部の野菜・果物のみ
- 菜食主義だが,食べられない野菜も多い(青菜,大根,玉ねぎ等)
- ただし,自分では「きちんとした食事」と思っていた
- サプリ摂取:なし
- 飲酒習慣:なし
- 既往歴:なし
- 内服歴:なし
症状
- 半年前から腕が上がらない
- 手足にしびれあり
- 歩行中転倒することもある
- 3週間前からは,浮腫・倦怠感
- 近医を受診したが寝たきり(体動困難)になり当院に入院
入院時所見
- 両上下肢浮腫:あり
- 意識障害:ありGlasgow Coma Scaleで E3V5M5-6(ぞるば注:意識障害としては軽度)
- 皮膚色:軽度黄色
- 舌:溝状舌,乳頭消失
- 血色素:2.5 mg/dl(注:女性正常値は 11.5~15.0 mg/dl)
- MCV:132.1 fl(注:正常値は 80~99 fl 基準値超は,溶血性貧血,巨大赤芽球性貧血など)
- 血中ビタミンB12: 68 pg/ml(注:基準値は 180~914 pg/ml)
- 血中葉酸:2.4 ng/ml(注:基準値は 4.0 ng/ml以上)
治療
- 動物性食品を使わない食事を提供.
- 入院中の1日平均摂取量は 蛋白質(主として豆腐) 47.2g/脂質 20.7g/1120kcal
- 葉酸錠 15mg/日投与
- メコバラミン(活性型 ビタミンB12) 筋注 500μg × 2/日 → 入院11日目からはメコバラミン1000μ錠/日 内服
結果
- 入院3日目で話す速度が速くなった
- 同9日目で腕が上がるようになった
- 同10日目で歩行可能
- 同15日目で血色素:2.5 → 5.1 mg/dlに増加.退院
感想
ビタミンB12は吸収率が低く,かつ体内蓄積もあまりきかないので,完全にB12を摂らなくなると,通常の成人でも2~3年で枯渇して,欠乏症になると言われています.
この記事にも書いたように;
成人の場合は,ある時点から完全に動物性食品を摂らなくなっても しばらくは体内蓄積があるのですが,新生児の場合は命取りになります.
厚労省の食品標準成分表を見ると,ビタミンB12の含有量が多い食品 Top20は下の通りです.
貝類,魚類,肉類が並びます.例外は海藻(海苔)ですが,これは100gあたりの表示なので,通常の乾燥海苔なら一度に33枚を食べてこの量です.鶏レバー100gは食べられますが,海苔33枚は不可能でしょう.
この患者は入院中の食事すら動物性食品を忌避したのでしょう,しかたなく注射と薬でビタミンB12を補充していますが退院後が心配ですね.しかし歩けなくなるほど菜食主義を貫徹するとは 私にはまったく理解できない心理状態です.
(C) acworks さん
[学会報告の紹介が続きます]
コメント
摂食障害のようですが、この方はなにかきっかけがあったのでしょうか。高脂血症とか糖尿病とか。
詳細は不明ですが,30年前にメンタル面での大きなショックがあったようです.