1月 24-26日に京都で行われた 日本病態栄養学会で報告された実例です.医療用のリブレPro装着で わかった血糖値のデータを見せて,患者の栄養指導(というか,患者の説得に)結び付けています.
症例3 P-319 FGMデータに基づく糖尿病療養指導 [社会福祉法人恩賜財団 和歌山病院]
外来又は紹介来院した糖尿病患者40名(男性20,女性20)が対象)
年齢は30歳~80歳台
リブレProを2週間装着.同時に生活行動及び食事の記録を指示
高齢者の典型例:70歳男性
過去の経過
- 70歳男性 158,6cm/56.8kg (BMI=22.6)
- 2型糖尿病罹患歴 15年
- HbA1cは7%台で推移していたが,2年前より憎悪.
- 来院時 HbA1c 9.8%
- 服薬は エクメットLD(=DPP-4/メトホルミン配合剤) 2錠/日,アマリール1mg(SU剤)2錠/日,アクトス15mg 1錠/日
- 網膜症:なし
- 神経障害:なし
- 医師からの指示エネルギー:1,600kcal/蛋白質 60g
食事状況
- 昼食欠食がある
- 1日の食事例では;
- 朝食:食パン2枚/バター/はちみつ/無糖コーヒー
- 昼食:コーヒーのみ
- 間食:バナナ1本
- 夕食:炒飯(米/卵/玉ねぎ/魚肉ソーセージ)300g,味噌汁(豆腐/ワカメ/ジャガイモ/玉ねぎ) 200g
- 夕食が [ご飯+梅干し+インスタントラーメン]という日もあった
- 管理栄養士の見積では,平均的に 炭水化物:70%,蛋白質:11%,脂質:19% 1,519 kcal.
- 野菜をほとんど摂取していない
リブレPro装着でわかったこと
- 日中のほとんどの時間は血糖値が140以上
- 昼食欠食時には午後のほとんどは血糖値100~80で推移
- 深夜(2:00頃)に 血糖値<80の低血糖あり
- 食事指導の前後で HbA1cが8.4% → 8.2%
感想
以下は,学会の報告内容ではなく,しらねのぞるばの感想です.
炭水化物中心で,蛋白質が不足している,高齢者の典型的な食事ですね. しかもカロリーも少なめです.これだけの投薬をしてもなお 日中の血糖値が常に140以上で,しかもこの食生活では,今後も悪化こそすれ改善はしないでしょう.特に自覚症状は出ていないようですが,出た時はもはや手の施しようはないと思います.
栄養指導により(実施期間不明)HbA1cが,8.4→8.2に改善したと報告していますが,まあ誤差の範囲内でしょう.
医師は 毎日 蛋白質60gの摂取を指示しているようです.これですら高齢者には少ないと思うのですが,実際の摂取量は40g/日ほど. 低カロリーかつ低蛋白質のこんな食事を続けていけば,糖尿病悪化だけでなく,遠からずサルコペニアにもなると予測されます.
管理栄養士のご苦労がわかりますが,頑固な高齢者の食事を改善しようとしてもほとんど徒労に終わると思います.孫のような年頃の管理栄養士に何と言われようと,高齢者は炭水化物が大好きなのです.炭水化物を食べ続けるるためなら 『これで調子がいいのだから』『今までずっとこうしてきた』『米を食べないと力が出ない』などと どんな言い訳でも作るでしょう.
[学会報告の紹介が続きます]
コメント
>遠からずサルコペニアにもなると予測されます.
記事の主旨から外れるかもしれませんが、
筋肉を増やすには糖質が必要と主張する人たちがいます。では糖質制限で筋肉量はどの程度減るのでしょう。
体重の減少に応じてある程度減るのは体重と言う負荷が減るため当然としても将来、自分の体重も支えられないようなサルコペニアになる程の減少はあるのでしょうか。
私の例で言うと45g/日程度しか摂取していなくても、少なくとも過去1年間、筋肉量は減っていませんし、腸内環境を意識した食事にしてから最近の3~4ヶ月は増えています。
では、反対に糖質摂取はするけど、ほとんど運動しない生活をした場合(入院で寝たきり)、明らかに筋力(=筋量?)は減少する事は周知の事実でしょう。
そのように考えると糖質摂取と筋量は、日常生活に影響するような程の関係があるのかと疑問に思います。
ボディービルダーのようなオーバースペックな筋量維持の事は知りませんが、総合的に言えば、影響が大きいのは糖質量よりもタンパク質量であり、運動であると思うのですが、糖質が必要と主張する人たちはなぜ、そういう主張になるのでしょう。
糖質を必要と主張する人が言う筋量とはボディービルダーのような筋肉を差しているのでしょうか。
もしそうなら、それはそうかもしれません。単なる糖によるドーピングですから、日常生活には無関係であり、医療の範疇からは外れたものと考えます。
久しぶりの暴論でした。あくまでも私個人の暴論ですから(汗)
>筋肉を増やすには糖質が必要と主張する人たちがいます
そう主張する人のロジックはこういうことのように思われます.
(1) 十分な蛋白質摂取により,血中アミノ酸濃度が高まっても,そこから蛋白質を合成するにはエネルギー(ATP)が必要である.
(2) ATPは解糖系,すなわちグルコース代謝のみで生成される.
(3) しかし,グルコースが少ないと,肝グリコーゲンが分解により消費され,枯渇する
(4) したがって,糖質制限食を行うと,筋肉合成が阻害される
おおまかにはこうなのでしょう.
★★しかし,決定的に間違えているのは,(2)です★★
ATPはたしかに解糖系やクエン酸回路から【も】生成されますが,それはごく一部であり,多くは酸化的リン酸化(ADP→ATP)から生成されるのであって,ミトコンドリアでの有酸素反応(酸化反応なのだからこれは当然)が最大の工場であり,ここで 代謝に使われるのは,脂質・糖質・アミノ酸です. 特に脂質は,ずば抜けた高エネルギー燃料です.
もしも人体の蛋白合成に糖質摂取が必須なのであれば,船の遭難などで水分しかとれなかった人が何か月も生存できるわけがありません.
膨大なエネルギーを蓄えた脂質(皮下脂肪)の有酸素代謝によりエネルギーを得て,組織の再合成なども行えているからです.
>筋肉を増やすには糖質が必要と主張する人たちがいます
困ったことには,こういう人の中にはスポーツ医学の専門家もいるのですね.あの先生方は,もっぱら元気いっぱいの体育大学学生の,主として瞬発運動のメタボリズムを研究しているので,安静時の代謝などまったく興味がないのです. スポーツをしていない状態での人体のエネルギーはどうなのかということは眼中にないのでしょうね.
>多くは酸化的リン酸化(ADP→ATP)から生成される
量の問題以外には、ATPを産生するスピードの問題があるようにも思います。
解糖系でATPを作るのが最もスピードは速いはずなので、瞬発系では糖代謝をメインで使わないと重いバーベルは上げられない。
これは、より大きい負荷をかけないと筋肥大しない事に対して不利になると言う事もあるかもしれないと、ふと頭をよぎったのですが。。。
まぁ、どちらにしても日常生活には無縁の理論でしょう。
筋トレでβ細胞が復活するわけもなく、インスリン非依存的に耐糖能を改善するだけで、筋トレと糖質制限は、はたしてどちらが長生きできるでしょうね。
脂質代謝の効率は糖質代謝の3倍と聞いたことがあります. ジェット戦闘機が最高速度を出すには アフターバーナーを吹かす必要がありますが,そうすると燃費は非常に悪くなり,1時間もしない内に燃料切れになるそうです.人間の速筋と遅筋も同じようなものなのでしょうね.
スポーツ医学の専門家や筋トレ命の人は,速筋ばかりを問題にしますが,人体には遅筋もあれば,消化管の平滑筋のように不随意筋もあるのですけどね.それとも米国海兵隊の猛者のように『脳味噌まで筋肉でできている』のかもw