このシリーズを開始して以来,多くの方から;
『これまで肝機能は正常値だったのに,今回急に高くなった』
『肝機能数値が高いからと再検査に回されたが,正常だと言われた』
などという質問が寄せられました. 実際私もそういう経験をしたことがあります.
血液検査とは
健康診断や人間ドックでは,二の腕をゴム輪でギュッと絞められて 静脈から採血します.
ただその血液は,通常その場で検査されることはなく,冷蔵保管されたうえで,検査の目的に応じた各種の前処理を行ったうえで 検査に回されます.
肝機能検査では
血液の内,血清と呼ばれる『液体』部分だけを使います.
そのために,血液を試験管に入れて 遠心分離機にかけて,
強力な回転重力により,赤血球などを管の底に沈降させ
その上澄みの部分=血清 Serum(*)だけを取り出して,ASTなどの濃度を測定します.
肝機能項目のASTなどは,この上澄みの血清中の濃度を測定します.
(*) 血糖値の測定も.やはり血液の上澄みだけで行います.ただしこの場合は血漿 Plasma です.血清と血漿の違いについては こちら をご覧ください.簡単には,血液に凝固剤を入れて遠心分離にかけるか,入れずに遠心分離にかけるかの違いです.
しかし,まれに 固体部分の赤血球などが壊れて【=溶血】,液体部分に混じってしまうことがあります.
こうなってしまう理由は
- 採血の時の過度に細い針や吸引圧で赤血球が壊れた
- 保存・運搬時のショックで赤血球が壊れた
- 採血後,全体を均一にするための 転倒混和操作が激しすぎた
などです. 赤血球がわずかでも壊されると,赤血球の中にはASTやALT,とりわけ ASTが高濃度で含まれているので,これが液体部分に混じると,本当の血中ASTやALT濃度よりも高く測定されてしまいます.
これが「溶血誤差」という現象です.
「溶血誤差」があると
ただ,こうなった場合は ASTだけが高く測定されることはなく,ALTも高く測定されてしまいます.
したがって AST/ALT比率が普段通りで,突然 両方とも高い値になった時は,この『溶血誤差』の可能性があります. もちろん検査機関では,溶血が起こっていないかチェックはしているはずですが,目視でわからないほどのわずかに血清が赤みがかった程度では,そのままOKとして測定に回される場合があります.
西村様やhighbloodglucose様のデータで不自然なグラフの『跳ね上がり』が見られたのは,この『溶血誤差』かもしれないと考えます. 「肝機能が急に悪くなった」という場合は,それまでの数値と見比べてみて,この不自然さがないか,チェックするといいでしょう. ただし 急性肝炎では,本当に急激な数値上昇があることも事実です.もちろんその場合は医師がほうっておかないはずですが.
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