SGLT2阻害薬は「やせ薬」か[1]

捨てては拾う

人体内部を循環する血液は,各組織に酸素・栄養分を配送する,体内最大の流通システムですが,同時に 廃棄物収集システムでもあります. 各組織で不要になった老廃物は血液に載せられて腎臓に集められ,『糸球体』というろ過機で血管外に捨てられます.糸球体のろ過機能は,かなり目の粗いザルのようなもので,赤血球・タンパク質など『かさばるもの』以外は,まず全部捨ててしまいます. したがって血液中のグルコース(ブドウ糖)も捨てられてしまいます.しかし すぐに糸球体に続く『近位細尿管』で待機している SGLT2,および SGLT1によって,グルコースが再回収され,血管に戻されます.

ゴミあさりみたいですが,グルコースの分子量は小さいのでこうせざるを得ないのです.糸球体でブドウ糖を捨てないようにすると,その他の多くの老廃物も捨てられませんから.

腎臓には1日に約180gのグルコースが届きますが,この再吸収によりほぼ100%が回収されます. ただしあまりにも血糖値が高い[約170mg/dl以上]と,SGLT2/1では「取りこぼし」が発生して,尿中にグルコースが流れ出てきます.

SGLT2阻害薬とは

このSGLT2が,先天的に機能しない人がいます. 当然,グルコースは SGLT1だけで再吸収されることになり,常に尿から糖が検出されることになります. しかし,よく学校健診などでそういう子供が見つかるのですが,その子は糖尿病ではなく,血糖値は正常で元気です【=腎性糖尿】. 尿糖が常にでているというだけで,特に健康上の障害も見当たりません.

それならば,薬物を使って SGLT2の動作を止めてしまえば,つまり 腎性糖尿の人と同じように常に尿に糖を『捨てて』しまえば,血糖値上昇を防げるではないか,というのが SGLT2阻害薬の発想です.

ところで,欧州では リンゴや梨の木の皮を齧ると(なぜ,齧ったのか意図が不明ですが),尿に糖が出てくるということが知られており,リンゴの樹皮や根の成分を調べたところ,フロリジンという化合物にその作用があることがわかりました.

ポリフェノールに糖が一つ付いたような構造です. このためSGLT2は,これを糖だと思って取り込もうとして「目詰まり」を起こしてしまうようです.(なお SGLT1の方は騙されません)

しかし天然のフロリジンのままでは,上手で赤く示した [-O-グリコシド]エーテル結合が簡単に切れて,すぐに失活してしまいます. そこでこの -O- 部分をなくして,糖とポリフェノールを直結したもの,および,それらによく似た構造にしたものが各社の SGLT2阻害剤です.

食べるそばから捨てる

SGLT2阻害薬を服用すると,SGLT2は ほぼ24時間にわたり機能停止します.この間,腎臓に届く180g/日のグルコースはSGLT2では再吸収されないのですが,SGLT2が働かないと,後に控えるSGLT1が「後輩め,寝てるな!」と頑張るらしくて,100g/日ほどを再吸収するようです. もちろん,それ以上は尿にあふれるので,結果として SGLT2阻害薬服用者は,毎日 70~100gのグルコース(=ブドウ糖)を食べるそばから捨てることになります.

SGLT2阻害薬で減量

現在日本では 7社から6種類のSGLT2阻害薬が発売されています. 毎年 売上は伸びており,遠からずDPP-4阻害薬と同じくらいに使われるのではないかと予想されています.

その特徴は,何といっても『インスリンと無関係に血糖値を下げられる』ということです.実際インスリンを打っていた人が SGLT2阻害薬を服用開始すると,低血糖に陥る可能性があるので,製薬会社は,添付文書で警告しています.

SGLT2阻害薬が注目を浴びた第2の特徴は,『尿から糖が出ていく』=『自動的にカロリーを捨てられる』という点です.肥満によるインスリン抵抗性主体の糖尿病では,これは 血糖降下+肥満解消 の二重の効果が見込めます.

たしかに 毎日70~100gのブドウ糖を食べるそばから捨てていけば,カロリー換算で 280~400kcalを捨てていくわけですから,これを脂肪組織重量に換算すると,毎日約40gほど『痩せていく』計算です.たかが40gといえど1年なら15kgも体重が減る計算です. 100kgの体重も7年ほどでゼロになってしまいます. 本当にそんなにやせられるのでしょうか?

(C)たまやす さん

[2]に続く

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