緩徐進行1型糖尿病[3]

緩徐進行1型糖尿病(日本では SPIDDM/海外ではLADA)とは何か,そして その発症機序は不明であることを見てきました.

緩徐進行1型糖尿病[1]
1型らしくない糖尿病には 1型,2型,そして妊娠糖尿病とその他の糖尿病に分類されるというのが標準的な考えです.1型糖尿病は,生活習慣や肥満などとはまったく無関係に,ある日突然膵臓のβ細胞が自分自身の免疫システムによって攻撃され,インスリン分…
緩徐進行1型糖尿病[2]
前回記事で,「緩徐進行1型糖尿病は1型と2型の中間的病態を示す」と書きました. 1型と2型とでは発症機構や病態がまるで違うのに,どうしてその「中間的な状態」がありえるのでしょうか? もっとも1型・2型ですら,その発症メカニズムはほとんど未解…

では 治療法は?

わからないことだらけですが,では緩徐進行1型糖尿病の治療法は確立しているのでしょうか?

2008年に緩徐進行1型糖尿病に関して,こういう報告が発表されました(TOKYO Study).

Maruyama 2008

それによれば,糖尿病と診断された人4089名のGAD抗体を調べて,GAD抗体が陽性であった人(ただし この時点ではインスリンを必須としていなかった)60人を2群に分けて,30人はそれまでの糖尿病治療を継続し(=対照群),残りの30人は インスリンによる治療を開始して(=インスリン群),57か月間 追跡調査しました. すると 対照群は43%がインスリン依存状態(=インスリンなしでは血糖値をコントロールできない)になったのに対して,インスリン群では 10%でした. しかも インスリン分泌能の指標である C-ペプチド値の低下は,インスリン群の方がはるかに緩やかだったのです.

この結果から 「まだインスリン分泌が枯渇していなくても,GAD抗体陽性であれば,早期にインスリン治療を開始した方がいい」という結論になりました.これは膵臓の負荷を軽減し,機能を温存するという意味において まったく理にかなっています.

そこで これ以降 GAD抗体陽性であれば,まだそれほど血糖値が高くなくても,とにかくインスリン開始という治療が優先されるようになりました.

ところが

しかし,GAD抗体陽性=即インスリン という方法は,それはそれで問題があることも判明しました.
前々回のこの記事で;

緩徐進行1型糖尿病[1]
1型らしくない糖尿病には 1型,2型,そして妊娠糖尿病とその他の糖尿病に分類されるというのが標準的な考えです.1型糖尿病は,生活習慣や肥満などとはまったく無関係に,ある日突然膵臓のβ細胞が自分自身の免疫システムによって攻撃され,インスリン分…

 

1型かどうかは 通常GAD抗体反応で判定されます.これだけで約70%の判定精度です

と書きましたように,70%の判定精度ということは,逆に言えば30%ぐらいの人は GAD抗体陽性であっても1型ではないということになります. 実際こういう報告があります.

Kawasumi2024

1型糖尿病ではなくても,GAD抗体が陽性になる場合があるのです.この報告では,たしかに最初はGAD抗体陽性だったのだが,72日後に再検査したら 陰性に戻っており,結局 この人は2型糖尿病だったのです.

さらに 【GAD抗体陽性=1型糖尿病】と言い切れない理由は他にもあります. たしかにGAD抗体は主に膵臓に存在するのですが,実は脳・中枢神経にも存在しているので,『GAD抗体陽性=膵臓β細胞の破壊』とまでは決めつけられないのです.

「それでも 糖尿病であれば,どちらにせよ早い内にインスリンを使う方がいいのではないか」という考えもあるでしょうが,まだ血糖値がそれほど高くなく,したがって自前のインスリンが出ている内に 外部からインスリンを注射することは,低血糖リスクを不必要に高めてしまうことになります. また インスリンを開始すると,患者本人の費用負担も大きくなります.  

現在では

以上のような経緯から,日本糖尿病学会は 2023年に『緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2023)』において,こう定めています.

  1. 経過のどこかの時点で膵島関連自己抗体が陽性である。
  2. 原則として、糖尿病の診断時、ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく、ただちには高血糖是正のためインスリン療法が必要とならない。
  3. 経過とともにインスリン分泌能が緩徐に低下し、糖尿病の診断後3ヶ月を過ぎてからインスリン療法が必要になり、最終観察時点で内因性インスリン欠乏状態(空腹時血清Cペプチド<0.6ng/ml)である。

判定:
● 上記1、2、3を満たす場合、「緩徐進行1型糖尿病(definite)」と診断する。
● 上記1、2のみを満たす場合は、インスリン非依存状態の糖尿病であり、「緩徐進行1型糖尿病(probable)」とする。

つまり 緩徐進行1型糖尿病にも Definite(確定)と Probable(未確定)の2つの病態があるというわけです.ただしProbable(未確定)とはいっても,何もわからない(不確定)という意味ではなく,緩徐進行1型糖尿病の可能性はあるが 単にデータが出そろっていないだけで確実性は高いという意味です.

このような診断基準としたのには理由があります,上記の2008年に発表された上記のTOKYO Studyの試験方法を見ると;

GAD抗体陽性の60人を2群に分けて,対照群は当時の標準的な糖尿病治療を行うとしたのですが,当時はまだDPP-4阻害薬が登場しておらず,投薬治療と言えばスルホニル尿素(SU)治療だったのです. したがって,対照群とインスリン群で 明らかに後者が良かったとは言っても,それは膵臓を酷使するSU剤との比較でした.

しかし現在では糖尿病薬は選択に困るほど多種多様です(しかも SU剤は できるだけ使わない方向)から,まだインスリン分泌が著しく低いのでなければ インスリン以外の投薬で十分ではないかと 考えられたからです.

そこで 上記の診断基準を受けて,緩徐進行1型糖尿病Probable(未確定)の治療について,学会はこのアナウンスで;  

緩徐進行1型糖尿病疑い例への治療介入に関するステートメント

緩徐進行1型糖尿病Probable(未確定)の場合は,やや複雑ですが 下図のようなアルゴリズムを推奨しています.

緩徐進行1型糖尿病疑い例への治療介入に関するステートメント

投薬も併用しつつ(←【投薬だけ】とは言っていません),血糖値を注意深く観察しながら 必要に応じて治療を強化し,最後はインスリンというアルゴリズムなのです.

もちろんどの段階であっても,自前のインスリン分泌が低下してきたら インスリンを開始することは当然です.

[続く]

  

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