【この記事は 第29回 日本病態栄養学会年次学術集会のレポートではなく,オンライン講演を視聴した ぞるばの感想です】
ぞるばが,日本糖尿病学会や,この日本病態栄養学会に,素人にもかかわらず野次馬参加するようになったのは,その当時『糖尿病の食事療法はこれで決まり. これ以外ありません』とまで 言われていた『食品交換表』に忠実に従った食事をしたら,みるみる糖尿病が悪化したので,深刻な不信を抱いたからです.
れっきとした医学系学会が公式に表明したガイドラインを,一介の素人が『だめだ,こりゃ』と投げ捨てるとは不遜極まりないですが,その後 学会に継続参加していると,学会内部でも『食品交換表一辺倒では問題だ』という声が出てくるようになりました. 素人でも 体験に基づく直観は正しかったのです.
実際,糖尿病の食事療法をめぐって,数年前までは,毎年の学会で侃々諤々の議論が行われていました.
ところが近年は,日本糖尿病学会も,この日本病態栄養学会も ほぼ口をつぐんでいます.
糖尿病に限らず,食事療法でエビデンスを出そうとしても 非常に困難です. 薬であれば,『薬を飲む前』と『薬を飲み始めた後』とを比較すれば,『薬の効果』はわかります.しかし 食事ではそんな実験はできませんからね. つまり エビデンスが出せないので『じゃあ糖尿病の食事療法はどうすればいいんだ?』には答えが出せなくなったのです.学会内部で意見統一ができない,だから学会のテーマにとりあげられないというわけです.
これは日本だけでなく,米国でも同様です. 最新の米国糖尿病学会(ADA)のガイドライン(ADA Diabetes Guide 2026) でも,『すべての糖尿病患者に最適な食事療法など存在しない』と言明しています.

じゃあどうすればいいのか,という問いにADAは こう答えています.
A variety of eating patterns can be appropriate for individuals with prediabetes or diabetes, including Mediterranean-style, plant-based (which may or may not be omnivorous), Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH), and low-carbohydrate.
境界型糖尿病または糖尿病の人には、地中海式食事、植物性食品中心の食事(雑食の場合もあり)、高血圧を予防する食事療法(DASH)、低炭水化物食など、さまざまな食事パターンが適しています。
3.Prevention or Delay ofDiabetes and AssociatedComorbidities: Standards of Carein Diabetes—2026
どれが適しているのかは,個人差が大きくて まったく予想できないのだから,それぞれの効果をみながら各自で決めていけ=つまり『個別化しろ』とだけ言っているのです.
よくネットでも「私は この食事法で糖尿病を克服した. こんなに すばらしい方法なのだから,みんなもそうすべきだ」という情報はみかけます. おめでとうございます. あなたは自分に最適の食事療法を見出したのです. でもそれは他のすべての人にも最適であるとは証明されておりません.
さてさて,こういう情勢で 今回の学会では どんな話が聞けるのか,下記3本の講演を聞いてみました.

最初の合同PD9では,肝臓病,腎症,高血圧,高脂血症,糖尿病...それぞれに個別の診療ガイドラインはあるものの,糖尿病と高血圧,糖尿病と腎症とが併存している人,更には 3つも4つも持病を抱えている人は こうすればいいというガイドラインは存在しません.高齢者では,むしろ単一の病気だけという人は少数派なのですから,すべてを横断的にカバーする診療ガイドラインは 絶対に必要でしょうね.


さらに合同PD6,教育講演5 まで聞いてみました. 糖尿病の食事療法について何が語られるのか,聴き耳をたててみたのですが, ...まあ,予想通りでした.特に目新しい情報はありませんでした.
糖尿病患者の3/4が高齢者である現在,高齢者に過度なカロリー制限/蛋白質制限を行うことは,かえってサルコペニアを招いて有害であること,低炭水化物食は1年を超えて有効であるというエビデンスは存在しないこと(だからといって,1年を超える継続を禁止する理由は述べませんでしたが)等々,すべて従来通りでした. また教育講演5の内容も,2年前の講演とほぼ同様の内容でしたので,再掲はいたしません.
この通り,日本の糖尿病医療において,食事療法に関する議論は完全に停滞しています.食品交換表の第8版改訂へのつなぎとして登場した『健康食スタートブック』[PDF]にしても,発表されてからほぼ2年たちましたが,改訂はされていません.
かつて学会がカロリー制限食一辺倒だった時代には,エビデンスはなくともコンセンサスだけでカロリー制限食を提唱していたのですが,その『コンセンサスによる推奨』すらなくなりました.つまり学会内のコンセンサスが,もはやとれなくなったのでしょう.『コンセンサンスが存在しないこと』に関してだけコンセンサスがとれているようです.

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