境界型糖尿病~石の上にも四年

三年ではなく,四年です.

何の話かといえば,この文献で;

Qian 2024

境界型糖尿病(IGT: Impaired Glucose Tolerance;糖尿病予備軍)と判明した人を30年以上追跡したら,境界型の状態を4年間以上 維持した人は,それより短かった人に比べて,有意に長期予後が良かったと報告しています.なので,『境界型糖尿病で4年頑張れば大丈夫』などと紹介しているサイトもあります.

(C) はち さん

中国の大慶(Da Qing)は,旧満州のほぼ中央にある都市ですが,ここで健康診断を受けて境界型糖尿病(IGT: Impaired Glucose Tolerance)と判明した人を30年以上追跡したのです.

中国 黒竜江省 大慶

最初の健診で,境界型と判定された人は,対照群/食事療法群/運動療法群/[食事+運動]療法群にランダムに割り当てられ,その後2年毎に糖負荷試験を受けて,最大6年目まで調べられました.

Qian 2024

この試験は 1986年から1992年まで行われ,その結果 どの介入群(食事/運動/食事+運動)でも,境界型から糖尿病への進展は,対照群に比べて有意に低いことが見出されています.

しかし,話はそれで終わりではなく,試験から30年後に,この試験に参加した人のその後の経過を追跡したのです.試験開始時点で,参加者の平均年齢は45歳ほどでしたが,それから30年経過していますので,当然かなりの人が亡くなっていました. ということは,参加者の全死亡率を評価できることになります.

その結果がこれです.
まず境界型を2年間維持できた人の 各リスクはこの通りでした.

Qian 2024

試験期間の2年目でもまだ境界型糖尿病であった人(上図 左側)は,そうでなかった人(上図 右側)に比べて,全死亡率/心疾患死/心疾患イベント/微笑血管合併症が低い傾向にはありましたが,有意差まではついておりません.

しかし,試験期間の4年目まで境界型を維持できていた人と,そうでない人ではこうでした.

Qian 2024

心疾患死以外は,有意にリスクが低かったのです.

そして,6年目までずっと境界型を維持していた人は;

Qian 2024

すべてのリスクで明確に有意差がつきました.

このことから,表題の『石の上にも四年』,つまり 境界型糖尿病を4年以上維持できた人は,その後の長期予後がよいことが見出されたのです. 糖尿病になるか/ならぬかという微妙な時期に,できるだけ対策を打つことは後々まで影響するという結論です.

ただし

この報告そのものにケチをつける気は毛頭ありませんが,ただし上記の報告の解釈には注意が必要と考えます.
まず この報告は『境界型糖尿病の状態を4年間維持できれば 誰でも その後の予後が良くなる』と保証しているわけではありません. この研究の対象者(全 530名)を長期追跡して観察したら,そうであったというだけです.

さらに境界型を維持できた人は その後の予後がよいというのも,ある意味では当然の帰結でしょう.この研究では,試験に参加した人の 過去の耐糖能がどうであったかなどは調べていません.ただ 試験参加後 2年毎に 耐糖能試験を行って観察しているだけです. ですから,境界型を短期間(4年未満)しか維持できなかった人と,長期間(4年以上)維持できた人との個人差は不明です.
下図のように 研究開始時点では 同じような耐糖能であったとしても,元々 耐糖能の上昇が非常に緩やかだった体質の人(Aさん)と,これまでかなりの速度で悪化してきた人(Bさん)との差を見ているだけかもしれないのです.

4年という数字だけに目を奪われないようにしましょう.

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