もう お歳だから

(C) おじょー★ さん

おじいちゃん,もう お歳だから 肉と油物は控えましょうね

よく聞く言葉ですね. 『おじいちゃん』と呼ばれたらきっとカチンとくるでしょうが,客観的には この令和の御世に昭和世代がのさばっているということは,我々昭和世代が明治生まれの人を見たようなものですから;

まあ,しかたがないですかね. 増して 私の母親なんぞ大正生まれですよ.ということは 昭和の時代にいた 江戸時代生まれみたいなものですか.江戸時代の最後に生まれた人が 100歳の長生きだったら,1968年(昭和43年までいたわけですか.そういえば あの頃は 明治100年とか言ってましたね.

それは さておき,私が生涯で初めて(そして おそらく最後の)管理栄養士による指導を受けた時には,冒頭のようななまやさしい言葉ではありませんでした.

肉と揚げ物は毒物です

と,こう のたもうたのです.

ことほど左様に,テレビ・新聞・健康雑誌などメディアを通じて,『ヘルシーな食事 = 低蛋白・低脂質』と喧伝されてきました. しかし,それを真に受けた高齢者がどうなったか.

今 高齢者の フレイルや,さらにフレイルが進行した サルコペニア が問題になっています.
もちろん誰でも高齢になれば,筋肉量の低下 あるいは筋力が低下するものですが,フレイル・サルコペニアとは,これが自立した生活を送れなくなるレベルにまで低下した状態です.

(C) tkc さん

 買い物などで外出はしたいのだが,交通機関や階段の乗り降りが自力では不可能,横断歩道では 信号が青の内にわたりきれない,さらには自宅の中での移動すら困難...こうなると 介護が必要な状態になります.

サルコペニア・フレイルが懸念される高齢者こそ,十分な食事(特に蛋白質の摂取)と適切な運動が効果的なのですが,しかし昨今のように猛暑が続くと どうしても『食欲がわかないので あっさりとそうめんだけ』となりがちです.

この記事 でとりあげた,第27回 日本病態栄養学会のシンポジウムで,徳島大学(現 同志社女子大)の奧村仙示(おくむら ひさみ)先生がこういう指摘をしていました.

デンシエット-Plus

従来の栄養指導は,もっぱら 中年以下の肥満防止ばかりに力点を置いていたので,肥満防止のために『カロリーを摂りすぎるな/脂質はカロリーが高いので 最小限に』と呼び掛けていたのですが,それをそのまま高齢者にまで適用するのは間違いでしょう.そうでなくとも食欲の衰えがちな高齢者は,しっかり食事を摂り 適切な運動をしなければならないからです.

ところが現実には,枯れ木のように痩せた高齢者にまで『肥満は大敵です』と 耳を疑う『栄養指導』がされています.高齢者に『健康のため,●●を控えましょう』などと言おうものなら,健康保持に敏感な高齢者ほど その日から ●●を一切口にしなくなります.これでは高齢者が健康になれるチャンスを奪い取り,早くサルコペニアになれと誘導しているのと同じです.

奥村先生は上記の学会シンポジウムで,中年までの世代に向けた 『肥満防止のための デンシエット』=みかけのボリュームの割にカロリーが低い『低カロリー密度食』が必要だが,高齢者には これを逆転させた 『高カロリー密度食』が必要になるだろうと提案していました.

もっとも そのシンポジウムは 『シンポジウム4:食環境の乱れ ~改めて見直す日本食のいいところ~』という題名からおわかりの通り,『日本食は低カロリー・低脂質ですばらしい!!』と礼賛することがテーマでした.ですから『高齢者にはむしろ高カロリーを』という奥村先生の提案は 具合が悪かったのでしょう,座長も会場の聴衆も スルーしてしまいました.

ただ 実際上の問題として,高齢者も喜んで食べる 口当たりの軽い高蛋白食というのは なかなか難しいです.ステーキ二枚重ねを食えと言っても無理ですからね. 懐石料理風の蒸し物なら手を出すかもしれません. 

(C) 日本料理研究会 レシピる!

 

 

 

 

 

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    以前は私も年齢と共に脂肪分の少ない物が好みになっていってましたが、7年ほど前に糖質制限食にしてから脂肪65%の食事となり肉の脂身が美味しく感じられるように変わりました。あっさりした物が食べたくなったり少食になるのは年齢のせいではなかったのだと気づきました。還暦を過ぎた今、若い頃でも食べたことがない1ポンドステーキ2枚食べられます。懐具合と相談ですがwww

    • しらねのぞるば より:

      日本の『糖尿病患者』及び『糖尿病が強く疑われる人』の合計 2,200万人の内,4人に3人は 60歳以上です.

      https://shiranenozorba.com/2023_07_17_jds-66-report-28/

      ところが『糖尿病食事療法のための食品交換表』は,相変わらず 中年世代以下だけを対象にしています.しかも食品交換表には『痩せすぎの人』の場合は 何も述べていません.つまり食品交換表は,糖尿病診療ガイドラインで打ち出した『個別化された食事療法』を真っ向から否定する存在です.これを矛盾と思っていない人の 頭の中をのぞいてみたいですね.

  2. かかか より:

    高齢者の食養生。
    うちの母は、骨粗鬆症以外はこれと言った病気のない、なんとも羨ましい人です。揚げ物OK、お肉OK、ケーキOK。孫やひ孫とピザや焼肉を食べて幸せそうです。
    人との関わりと持つためにも、なに食べてもOKなのは、笑顔で健康でいるための大きな秘訣でしょうね。

    • しらねのぞるば より:

      健康だから食欲旺盛,だから何でもおいしく食べられる,それがまた健康を増進し...という好循環なのでしょうね.

      今年101歳になる 私の母親も本当によく食べます.