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食品交換表のアンケート

今年の6月に発行された『糖尿病』第63巻6号にこういう記事がありました.

『糖尿病』第63巻6号

この記事の著者は,全員 学会の『食品交換表 編集委員会』の委員です.現在の食品交換表 第7版は2013年に発行されたものですが,これまでの歴史から見れば,この第7版を改訂するのであればそろそろ 第8版のとりまとめにかかってもよい頃です.

現在の第7版には,『血糖コントロールのために 炭水化物の量を把握することは悪いことではないが,それは往々にして糖質制限に結びつくことがあり注意が必要です』という文章があることからもわかるように, 『糖質制限』=『覚せい剤に手を出すことにも等しい犯罪的行為』といわんばかりです. しかも,それがこの7年間『正しい糖尿病知識』として全国の病院の糖尿病教育で広められてきたのです.

この記事は,この食品交換表が実際にはどの程度活用されているかをアンケート調査したものです.

ただし,調査期間は 2018年の6月6日~7月8日のわずか1か月,しかも調査対象は,学会の学術評議員701名,及び栄養士469名,合計1,170名に過ぎません.

学術評議員というのは,日本糖尿病学会の地方別支部単位で選任された方々で,学会が行う各種事業について,理事会から意見を求められた時に助言することになっております(以上 日本糖尿病学会定款[PDF])
また『栄養士 469名』が管理栄養士を含むのかどうかが不明ですが,いずれにせよ 学会の評議員と言えば 学部長・院長クラスから中堅・若手医師まで幅が広く,いったいこのアンケートで,日々実際に食品交換表を使っている人はどれくらいいるのでしょうか.

アンケート結果

これではなあと思って,その次を読んだら

341名より回答を得た(回答率29.1%

結局回答を寄せたのは,341人だけだったようです. 調査期間の短さといい,対象者の少なさといい,なにかあわただしく『アンケートを行った』というアリバイ作りにすぎないように思えます.
で,その回答結果は

最も使用されていた「食品交換表―第7版」では「必ず使用する」「よく使用する」が6割であったのに対し,「食品交換表活用編―第2版」,「糖尿病腎症の食品交換表―第3版」では「あまり使用しない」「全く使用しない」が7割を超えていた.「食品交換表―第7版」が使用しにくい理由としては,①難易度が高く,限られた時間の中で患者の理解を得るのが難しい,②食事の実態や指導したい内容との間に乖離がある,③視覚に訴える媒体を中心に他の資料が使用されている,ことが挙げられた.一方で「食品交換法―第7版」のTable 1~Table 6の分類は使用頻度が高く,このグループ分けが広く浸透しており,認知度の高さが伺えた.

概要に記載されているのはこれだけです.結局,食品交換表でよく参照されているのは,表1~6の一覧表だけで,それ以外のツールはほとんど活用されていないということですね.

ですので,おそらくこのアンケート調査は

食環境が多様化し超高齢社会を迎える中,中食/外食にも配慮した今まで以上に簡便でわかりやすい指導媒体の開発が求められていると考えられる.

これを次回 改訂8版の方向性としてオーソライズすることが目的だったのではないかと推測されます.

[6]に続く

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    糖尿病の食事管理は血糖値を上げないことと体重を適正に保つ事と思っていますが、それにはSMBGかCGMと体重計が有ればできます。血糖値を上げる糖質をカットしてその分、体重変化を見てタンパク質と脂質を調整するだけだ思うのですが。。。

    食品交換表の食品の組み合わせを覚える事に挫折した私ですが、たとえ覚えたとしても私の思う精度の食事管理は不可能だと気付き、食品交換表はほとんど読む事なく段ボール箱の奥深くに眠っていますw

    食品交換表が何を目指しているのか未だによく分かりません。血糖値が上がる低カロリー食は何に良いと言う事なのでしょう。糖尿病でない人への予防効果と肥満型の糖尿病の人には多少効果があるとは思いますが、日本人に多い非肥満型糖尿病に対して治療効果は期待できません。

    • しらねのぞるば より:

      >食品交換表が何を目指しているのか

      食品交換表の最大の問題は,科学ではなくて,『伝統的日本食は 世界で唯一の理想的な健康食』というイデオロギーを持ち込んでしまったことだと考えています.『理想的』なので,それ以上の改善も まして修正もありえないことになってしまいました. 自ら打ち出したセントラルドグマが,かえって自分の自由度を縛ってしまったのです. したがって,食後高血糖などのデータを突き付けられても,『よく噛めばいい』『野菜を先に食べればいい』と,食品交換表の内容については指一本ふれさせないという立場を固守するしかなくなりました.

      『食事療法の迷走』でも,詳細に時系列を追って調べてみましたが,最初は柔軟な考えだったのに,次第に 日本食=『善の食事』,欧米食=『悪の食事』という,偏狭な考えに『純化』していったのです.