前回記事では,血糖値が上がると膵臓β細胞に取り込まれるブドウ糖(グルコース)も増えるので,それを燃料としているβ細胞の中のミトコンドリアがエンジンフル回転となり,結果としてインスリン分泌を高める仕組みになっていると解説されていることを紹介しました.
しかしインスリン分泌は単線ではない
しかし,血糖値に対応したインスリン分泌の促進機構はそれだけではないのです. この記事にも書きましたように,小腸が物理的に刺激されただけで(たとえそれが食物でなくても)分泌されるインクレチンが,膵臓からのインスリン分泌を促進します.しかもこのインクレチンによるインスリン分泌促進は,グルコースによる促進とは一応独立した別の経路で行われています.
上図で(1)茶色の矢印がグルコースによるインスリン分泌刺激の経路,(2)青色の矢印がインクレチンによるインスリン分泌刺激の経路,更に最近では (3)両者にまたがるグルタミン酸によるインスリン分泌刺激の経路(黒矢印)まであると報告されています.
これも『個性』でしょう
そこで,これら3つの経路が,まるで時刻表にでも合わせるように ピッタリ同じタイミングで『ゆけーっ! インスリン!』となるでしょうか? とてもそうは思えません.経路によって早い/遅いは必ずあるでしょう.
食事を摂るやいなや,すべての経路が全力運転して,まるでダムが決壊したかのように大量のインスリンを一気に分泌する膵臓もあれば(図 上),かなりゆっくりとしかもチョロチョロとインスリンを出し惜しみする膵臓もあるし(図 中),他の2つの経路が既に指令を発し終えたのに,かなり遅れて『あ? 今からインスリン分泌 お願いしてもいいですか?』(図 下)などということもあるかもしれません.
とすれば,このように複雑かつ複数のインスリン分泌命令系統に 個人差があれば,血糖値の上昇に対してインスリンの出方が 人によってまったく違っても不思議ではないでしょう.
[16完]に続く
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